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ジェンマ6 意識しちゃった
今日も今日とて、ライラック色の空は透き通って見えて、晴れの日が続いている。髪を揺らすゆるりと吹く風も、とても気持ちよく、暑い日差しを和らげた。しかし、今のメルムは色々と悩み事を抱えている。色々と言わなくても、その悩みの中心にいるのはクリソライトだった。パートナーになってから、早2週間。初日にキスされてから、クリソライトは二日に一回という頻度でメルムをキスするようになっていた。
「メルム、こっち来て、見せたいものがあるんだ。」
クリソライトは読んでいた本から視線を外し、メルムを呼んだ。もうすぐ、テスト期間になるので、二魔は三日前から放課後に図書館に通うようになった。呼ばれたメルムは、クリソライトの側へ行き、視線だけ本に向けた。
「これ、見える?もうちょっと寄ってて」
そう言われ、メルムは顔をクリソライトに近づけ、本を読もうとしていたが、クリソライトはチューと軽くメルムをキスした後、ペロリとメルムの上唇を舐めた。
「なっ!ななんですか?!ここ図書館ですよ?!」
びっくりしたメルムは、顔を赤くしながら、とっさに声を上げた。静かな図書館に声を上げたせいで、周りの悪魔たちに注目され、メルムはハッとさらに顔を赤くして、黙ってしまった。
「フフ、図書館では静かにしないといけないんだよ?メルム」
そう言ったクリソライトを睨み、メルムはクリソライトの前にある自分の席に戻った。
`先輩のせいだろうが!!`
内心、文句を言いながら、メルムは赤くなった自分の顔を隠そうとして、ひたいを机の上にくっ付けて、右手を首に当てた。日に日に意地悪なキスの仕方になっているクリソライトにメルムは毎日頭を抱えている。逆にクリソライトはというと、そんなメルムを見て、心の中が激しい感情が渦巻いて、満たされてゆく。
数日が経ち、今日も二魔の悪魔は図書館通いをしている。`今日の私は一味違う!`と警戒しているメルムに、真面目に勉強しているクリソライト。メルムは自分の勉強に集中できず、モジモジしながら、チラチラとクリソライトの方をみる。真面目に本を読んでいるクリソライトは、自分に向けられる視線を感じ、本から視線を外し、メルムの方をみると、メルムは慌てて手に持った本に顔を向ける。クリソライトがまた本を読むと、メルムもまたチラチラとクリソライトを見る。クリソライトはそういうメルムを見て、首を傾げ、`どうしたんだろう`と本から視線を向けたまま少し考えた。
メルムがクリソライトをチラッと見ても、クリソライトが本から視線を外すことなく、勉強することに自分がバカバカしくなって、姿勢を改め、目の前にある本を読もうとしていた。が、クリソライトが少しでも動けば、メルムは無意識にその動作を目で追うようになった。クリソライトは顎を右手で支え、本を読んでは、手から顎を浮かせ、指を顎から唇へと滑らせ、考え込む顔をしていた。そういった動作を無意識に追うメルムは、クリソライトの柔らかそうな唇に釘つけられていた。静かに自分をボーッと見ていたメルムを観察してしばらく、クリソライトは内心`フフ`と笑う。
「…ルム メルム メルムってば。」
呼ばれたメルムはハッとなり、視線をクリソライトに向けた。
「もう夕食の時間になってるから、今日はここまでにして、一緒に食べよう?」
「あっ、はい。」
本を片づけ、席を立ち、二魔は図書館を後にした。クリソライトが話す度に無意識に唇を見てしまうメルム。
「どうしたの?メルム?」
クリソライトの質問で我に返ったメルムは、顔を赤くして目を逸らした。
「何でもないです。」
`何をしてた?!!!自分??!自意識過剰だよ、自分!!しっかりしろ、メルム!`
「どうしたの?具合でも悪いの?今日めっちゃボーッとしてるよ?」
`先輩、気がついてなかったんだ、、、よかった、、`
「本当になんでもないです。私、いつも元気です。」
「そう?」
胸をなでおろすメルムはクリソライトの目を避けたまま、そう答えた。
「ねーメルム。今日、めっちゃ僕の唇を見てたでしょ?」
クリソライトの言葉に、メルムは即顔をクリソライトに向けた。そこには意地悪な笑みをしたクリソライトがいた。カーッとメルムの顔に火がついた。
「ちっちがいます!」
「へー気になってたんだー」
否定するメルムにクリソライトは目を細め、意地悪な笑顔で続いた。
「だから!私、く、唇になんて気になっていません!」
首を左右に振り始めるメルムは、赤面のまま否定し続けた。
「いいんじゃないの?」
クリソライトはそう言って、左右に振っているメルムの顔を両手で止め、自分の顔に近づけた。メルムの体はクリソライトとの身長の差で少し屈むようになっていた。メルムの目をまっすぐに見るクリソライトは、目を細める。クリソライトに真っ直ぐ見つめられたメルムは、クリソライトの視線から目を逸らさなかった。いや、逸らせなかった。クリソライトの黄玉の瞳に吸い込まれたように、目を瞬くことさえもできないでいた。
`まつげが長い…綺麗だな…`
近づくクリソライトの顔を合図に、メルムはゆっくりと目を閉じる。目を閉じたメルムの顔を見て、クリソライトは微笑み、自分の唇をメルムの唇に当てた。
`可愛い…あーあーなんて可愛いやつなんだ…君は…いじめたくなる…もっともっと…僕のことでもっと困ってしまえばいいのに…`
クリソライトは閉じていたメルムの唇に何度もキスを落とし、メルムの唇を甘く噛んだ。びっくりしたメルムは、目を丸くして、声を出そうと唇を開けた瞬間、クリソライトは首を少し右に傾け、開いた唇の隙間から自分の舌をメルムの口の中へと侵入させた。メルムの口内を少し舐めては、唇の外を舐め、互いの唇が絡むようにしてキスをした。唇を外すと、クリソライトはメルムの顔を見て、またクスと笑い、最後に軽くメルムの唇にチューをした。
「期待してたんだね」
そう言われたメルムは反射的に手で唇を塞いだ。が、自分の唇が濡れたことに気づき、熱かった顔をさらに熱く、耳までも赤く染めた。
「きっ期待なんてしてっ」
「してたでしょー?」
メルムが否定する前に、クリソライトが先に言葉を固定した。そして、手袋をした右手でそっとメルムの左頬を触れた。
「いいんじゃないの?僕たちパートナーなんだから。」
メルムは、自分を優しくなだめるように言ったクリソライトの満足した顔を見て、それ以上否定することはできなかった。
その夜、膨らむばかりの悩みにメルムは眠れなかった。
つづく、、、
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