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ジェンマ7 「お預け」だよ
クリソライトとパートナーになってから、早1ヶ月がたち、メルムの心の奥深くに、何かが芽生え始めていた。朝、授業に行く前の出来事を思い出す。
「あっ、メルム?おはよお」
クリソライトは珍しく悪魔学校の寮に足を運び、メルムを探したのかメルムの姿を見つけた瞬間顔を明るくさせ、メルムの方へと歩く。
「クリソライト先輩?おはようございます。どうしたんですか?訓練終わりましたか?」
「うん。終わったばっかだよ。と、今週の週末空いてる?」
「今週のですか?」
「うん。どう?」
「空いてますが、何かありますか?」
「よかった。週末、僕と一緒に下町に行こ?」
「?いいですよ。」
首を傾げながら、メルムは答えた。
「初デートってことね。」
不敵な笑顔でそう言ったクリソライトに、メルムは`デート…パートナーだから、デートになるのか..`と表情を保ちながら、思った。
「メルム」
クリソライトはスーッと、自分の数メートル前から目の前まで距離を縮ませる。手袋をした右手を自分の耳に滑らせ、髪に指を潜り込ませては、少し下へと引っ張り、自分の顔に引き寄せる。クリソライトの動作に慣れ始めたメルムは逆らうことなく、自分の顔をゆるく引っ張る方向へと動かす。唇と唇が当たるか当たらないかという距離まで来た時、クリソライトは動きを止めた。近距離で視線を交差する二魔。クリソライトは無表情でメルムの目を見て、少し考える様子をした。ほんの1、2秒の時間の中。しかし、その止まっていた2秒が長く感じたメルムは、息すらできずに耳を打つ自分の鼓動を聞くことしかできなかった。次の瞬間、クリソライトはメルムの髪に潜らせた指を取りはずし、メルムの頬をつねった。
「週末のお預けだね。」
クリソライトは意地悪な顔でそう言って、手を振り、メルムを一魔残して行った。
`……..`
メルムは自分の手をつねられた頬にあて、痛いのか手で少しこする。
「…お..預け…?」
カーッと、顔を一瞬にして真っ赤かにするメルム。
`な!な!なんなんなのおおお!!?私が毎日、ねだってるみたいな言い方しやがって!!`
恥ずかしさとモヤモヤした感情で立ち尽くすメルムの後ろから声がかかる。
「あれ?メルムまだ行ってないの?いかないと朝食食べれなくなるよ?」
シトレアはメルムに話しかけながら、メルムの隣に行った。
「今日、、朝食食べません。」
「えっ?どうした?いつもなら食べるほうでしょ?」
「今日はただ食べたくないだけです。教室に行きましょう?」
「私はいいんだけど?…荒れてる?」
丁寧語には変わりはないが、メルムの後ろからメラメラと燃えさかる炎が見えた。
`クリソライト先輩…ハラタツうう`
そう思いながらもメルムの心の何処かに、満たされた何かがあり、がっかりする何かがある。何に満たされたのか。何にがっかりしたのかは、今のメルムにはただ、モヤモヤした感情で頭がいっぱいだけだった。
次の日の朝練。
「クリソライト!今週の週末に2年D−5クラスとスパーリングあるんだけど、君も当然いくんだろう?」
ペルシチが朝の鍛錬に終わったクリソライトに声をかけた。
「スパーリング?今回のスパーリング僕行かないよ。先約があるんだー」
「ホホーもしかしなくても、デートだな?」
ペルシチの言葉に周りの悪魔たちがピクッと耳をたてて、盗み聞きし始めた。それに気づくクリソライトは周りの悪魔たちにニコッと笑うと、みんなが自分の訓練に戻る。
「そうだね。飴をあげようと思うんだー」
「飴?」
「うん。だって、鞭の後は飴って常識でしょ?」
首を傾げ、説明するクリソライトに周りの悪魔たちの心の声が一致した。
`うわ……大変そうだなーパートナーくん….こんな悪魔に捕まっちゃって、苦労するわー…`
「あー…そうか。まあ、俺はそういうのあまり知らんけど…程々に、な?」
「いやだなーペルシチ。僕が無理やり何かするとでも思ってるの?」
「アハハ…いや…」
ぎくしゃくしたペルシチは`お前だからこそやりかねないんだろうが??!`と心の中にツッコミを入れた。
「しないよ?そんな勿体無いこと。」
`何がもったいないんだ??`疑問に思うペルシチ
「メルムの反応が可愛すぎて、手出しちゃいたくなるのはそうだけど、泣かせて遠ざけられるより、話してから泣かす方がいいと思うんだよねー僕。」
「えっ?やばい方向に行ってるけど、ノロバナ?お前そういうタイプだったけ??」
「クリスライトが惚気話したぞ!」
「大人になったな!」
「レアだわ!」
「ヒューヒュー」
カチン
「えーみんなーまたなの?」
クリソライトの可愛い顔と声から`今回本気だから`という副音が聞こえた。周りの悪魔たちはそれを聞いて、すぐクリソライトから数十メートル離れ、何もなかったように、訓練を続けた。
つづく、、、
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