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ジェンマ8 初デートの前日
明日は、クリソライトが言っていた週末だ。つまり、初デートの日である。「お預け」と言われてから3日が経ち、お預けされる前の日を含めて数えば、2日に1回という頻度でするキスが5日間もしなくなっていた。クリソライトは普段通り、図書館通いや夕食をメルムと一緒に過ごしていて、表情や口ぶりも普段通りだった。違うのは、キスをしなくなっていたことだけだった。逆を言えば、普段通りすぎて、最初から何もなかったかのように、クリソライトからはなんのそぶりも見られなかった。
`なんか…調子狂う!なんなのこのモヤモヤは??`
夕食を食べているクリソライトをジロジロと見ながら、そう思っていたメルムに、先に食べ終わったクリソライトは、ジロジロと見られて小首を傾げた。
「どうしたの?メルム?夕食食べきれてないけど、具合でも悪いのかい?」
そう言われたメルムは一瞬にして、食事を終わらせた。
「ワオー 食べるんじゃなく、飲み込んでるね、、」
クリソライトはクスクスと笑いながら、メルムの行動を見ていた。
`先輩…やはり普通だな…`
「明日のデート楽しみだね。朝10時にここ出よっか?僕、学校の門の前で待ってるね?」
「分かりました。」
食器を返却台に戻し、二魔は学校の中央ホールへと向かっていた。メルムは、右隣に歩くクリソライトを見て、心の何処かが重たくなるのを感じた。
`これじゃ、私の方が変に見えるんじゃないか??なぜ、私が悩まないといけないんだ?絶対おかしいよ…でも、何が?私は、何が欲しいんだ?何を求めているんだ?`
メルムの頭に自問が一つずつ浮かんでくる。でも、それでもメルムには答えがわからなかった。いくら悩んで、真面目に考えていても答えを知ることができなかった。`どうして?おかしいよ。`としか思えなかった。
中央ホールに続く廊下を歩く途中、クリソライトは、いつも自分の左隣に歩くメルムの右腕を自分の左手で弱く触れ、制服の上に指を滑らせた。メルムの腕を辿り、行き着いた先にはメルムの少しビクついた左手があった。自分の手でメルムの右手を弱く触れてから、握る。クリソライトは、自分の手袋越しからでも感じる徐々に上がるメルムの体温に気づく。メルムは普段とは違う、焦らすようなクリソライトの触り方にゾクッと背筋が痺れ、首筋に汗が流れるのを感じ、息を呑んだ。
何かへの期待
瞳から漏れ出る自分の感情に気づかないメルムは、何も言わないままただ自分の左下にいるクリソライトの目を見つめていた。下からメルムを見上げるクリソライトは、目を鋭く、そして冷静にその瞳を見つめ返し、微笑んで言った。
「明日。明日だよ。メルム」
そう言って、クリソライトは手袋をした右手をメルムの左頬に伸ばし、親指でメルムの目元を左から右へと優しく撫でた。
「ちゃんと僕がいいというまで我慢できたら、ご褒美をあげる。」
そのセリフを最後に、二魔は静かに中央ホールへと歩みを再開させた。
「じゃあ、また明日ね。メルム」
手を振りながら、そういったクリソライトを見て、メルムも手を振り返した。
「はい。また明日、クリソライト先輩。」
***
中央ホールを出たクリソライトは、自分の部屋に向かう途中、木に左手を当て、少し寄りかかっていた。そして、右手で顔を覆い、大きくため息をする。
「ハー…ダメだ…」
クリソライトは、そう小さく呟いていた。
`がまん がまん`
クリソライトはこの3日間、メルムが見せた表情を思い出す。熱を宿す視線で自分を見つめるオッドアイ。時々見せる物欲しそうな表情。ガッカリとムカツク感情の境を行き来した表情に、…漏れ出る感情に耐えきれぬ赤。初めて見るメルムのルビー色に輝く瞳に、クリソライトの中にある何かが爆発しそうになっていた。
`がまんだ…`
自分の中に「がまん」という言葉を強く握りしめ、顔を覆った右手を外し、その手袋に残っているメルムの体温に口づけをして、再び自分の部屋へと向かった。
***
メルムは自分の部屋に入り、扉の裏に立ち尽くした。
「おっかえりーメルム。…どうした?いいことでもあったの?」
「えっ?」
「あれ?もしかして気付いてないの?さっきからニヤけてるよ?それに…」
シトレアはそう言って、自分の目を指し、メルムに合図を送った。メルムはシトレアを見て、数秒。即座に自分の目を手で塞いだ。
「も…もしかして…」
「うん。赤だよ…」
「…」
それを聞いたメルムは、目を塞いだまま、その場でしゃがみこんだ。
`…見られた…`
しゃがみ込むメルムを見て、シトレアの脳裏にサイレンが鳴った。`におう`のだと。
「どうしたの?あっ 明日、私と買い物に行かない?」
「できません。」
「ん?どうした?予定でも入ってる?」
「….私、シャワー浴びてきます。」
元の色に戻っていた目で、タオルを取り、入浴場へとメルムは行った。
`おや〜おや〜「噂」の匂いがするぞ!`
部屋で残されたシトレアは、キラキラとした目で何かを企む表情をしていた。
つづく、、、
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