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「にしても、いいデコボコ加減の石だね! この間の石の形もよかったし、兄ちゃん、もしかして石のプロ?」
「石のプロ!?」
「じゃあ取り合えず、お礼を渡すね」
石ちゃんはそう言って、服を脱ぎ出した。
あ、これ、前回と同じ流れだ。
「石ちゃん、石ちゃん! 服はいらないから、飴ちゃん頂戴?」
「え? この石のお礼に飴ちゃんって……見合う?」
「見合う、見合う!!」
「そう? でも、今回は飴ちゃんがないから……」
そう言いながら、石ちゃんが手渡してくれたのは、鉛筆だった。
前回よりもランクアップしてる!!
「ありがとう! 石ちゃん!!」
「こちらこそありがとう! 石プロの兄ちゃん!!」
こうして鉛筆を手に入れた俺は石ちゃんと別れた。
***
さて、今までで圧倒的いいものの鉛筆を手に入れた俺は町をブラついていた。
いくらいいものを手に入れたからと言って、これが直接的に金になるわけではない。
次の交換をしなくては。
そんなことを考えながら歩いていると、おばさんの「あらららっ!」という声が聞こえてきた。
その声の方向を見ると、六十代くらいの奥さんが何やらしゃがみこみ、地面を見つめていた。
最強の運の持ち主である俺には分かる。
これはチャンスだ!!
「どうしたんですか、奥さん!!」
優しい俺は奥さんに駆け寄り、声をかけた。
「あ、あぁ。心配かけてごめんなさいねぇ。実は……鉛筆が逃げてしまって……」
……Why?
「鉛筆が……逃げた?」
「そうなんです。夫の形見の鉛筆で、いも持ち歩いていたのですが……突然、鞄から飛び出して、この穴のなかに入っていってしまったんです」
奥さんが指を指したその先には、確かに鉛筆が入りそうなほどの大きさの穴が空いていた。
鉛筆が逃げるなんてにわかに信じがたい話だが、しかし
「どうしましょう……」と困ったように頬に手を当てる奥さんを、正義の味方たる俺が放っておけるわけもなかった。
「分かりました、奥さん」
「はい」
「鉛筆くんが逃げたなら、出てきたくなるようにすればいいのですよ」
正直、俺にも俺が何を言ってるのか分からなかった。
でも、何もしないよりはマシだ!
当たって砕けろ! 石ちゃんみたいに!
俺は鉛筆が逃げたという穴の付近に、石ちゃんから貰った鉛筆を置いた。
すると、何ということだろう!
穴の中からちんあなごのように鉛筆が顔を出し、石ちゃんの鉛筆に興味を持ち出したではないか!
鉛筆はそろそろと石ちゃんの鉛筆の側に寄ると、気に入ったのか、鉛筆の芯を石ちゃんの鉛筆の芯をくっつけると、そのまま静かになった。
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