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ここで、事件の発生をお伝えする。
俺は絶望に打ちひしがれながら、カンカン照りの中を歩いていた。
ここは、夕焼けの中、河川敷をトボトボと歩いていた方が、切なさがあってよかったのかもしれないが、そんな都合よくはいかないのが現実。
真上にある太陽がスポットライトのように俺を照りつけ、汗が俺の頬を伝った。
いや、これほ本当に汗だろうか。それとも……。
事件は遡ること数分前、俺は日差しと俺の手汗で蒸されたカニカマ(1本)を握りしめながら歩いていたときに発生した。
持ち物が蒸されたカニカマ1本でも、俺は絶望をしていなかった。
前回もこうしてカニカマを1本だけ持ち歩いていたことがあったのだが、その時はどうしたらいいのかわかっていなかった。
でも、あの時の俺と、今回の俺は違った。
前回で、このカニカマの使い道は学んでいて、カメやザリガニの餌にすればいいということを知っていた。
というわけで、蒸しカニカマを片手に俺は河川敷に向かっていた。
前回、カニカマでカメやザリガニを釣ってくれた少年は元気にしているのだろうかと思いながら。
しかし、感動の再会とはいかなかった。
別に、少年がいなかったわけではない。
ただ……。
俺のカニカマが、どこぞの猫に取られただけで……っ!
え? カニカマを取られないように気を付けていなかった俺が悪いって? ノンノン。俺だって、黙ってカニカマを取られるほどバカじゃない。
俺はカニカマを守るべく、猫との死闘を繰り広げた。
あれを誰かが見ていたのなら、「現代の巌流島の戦い」と呼んでいただろうというほどの戦いだった。
だが、俺は宮本武蔵にはなれなかっただけで……。
くそう、あのどら猫! 俺の唯一の財産を!!
もう一度、石ちゃんに石っころと何かを交換してもらおうと思って例の公園に行ったが、救急車がいるだけで、石ちゃんはいなかった。
まさに、万事休す。
歩き疲れた俺は、地面にへたりこんだ。
猫との死闘で傷ついた手が痛む。
ああ、俺の人生、これまでか……。
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