夏の魔物

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夏の魔物

 蒸し暑い中にも、時折涼しげな風が混じる真夏の夜。地元の神社の境内は、夏祭りで賑わっていた。  参道の石畳の両側には様々な屋台が並び、多くの人々が行きかっている。大人、子供、老人、女の子、男の子……赤ちゃんを連れたお母さんもいる。  ――何気ない、日本中どこにでもある有り触れた光景だけど、私たち地元民にとっては、実に十年ぶりの夏祭りだった。  十年前、同じ境内で行われた夏祭りの時に、大きな事故があった。  とある屋台で火の不始末があり、近くにあったカセットコンロ用のガスボンベの束に引火、爆発した。その爆発によって屋台は瞬く間に燃え上がった。  火はそのまま周囲の屋台にも燃え広がり、夏祭りの会場は一瞬にして地獄と化した。  幸いにして、予め用意されていた消火設備によって、火事は十数分後には消し止められた。  けれども、多くの祭り客が火傷を負い、あるいは煙を吸って病院へと搬送された。そして運の悪いことに、一人の少女が逃げ惑う人々に突き飛ばされ、倒れ、何度も何度も何度も踏まれ、命を落としていた。  その少女は、私の姉だった。
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