夏の魔物

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 警察の話では、姉は即死ではなかったらしい。  生きたまま、足を、手を、腰を、胸を踏み砕かれて、頭蓋骨にもヒビが入って、それでもしばらくは生きていたらしい。  誰一人として、姉を顧みなかった。誰も姉を助けなかった。  許せるだろうか? いや、許せない。絶対に許せない。  何よりも――誰よりも、一人生き延びてしまった自分が許せない! 「おばさん、離れて……ください。私は、誰より私自身を許せない。だから終わりにするの。全部燃やして、一緒に燃やして、終わりにする」 「お願いよ涼子ちゃん、思いとどまって! アンタが死んだら、お父さんとお母さんはどうなるんだい? それに、この会場には、あの事故の後に生まれた子供達だって、沢山来てるんだよ! お願いだから、止めておくれよぉ」  なおも縋り付くおばさんを振りほどこうと暴れてみるも、でっぷりと太ったおばさんの体は重く、離れてくれない。  ああ、こんなことをしていては、オイルが乾いてしまう。火事を起こすのに十分な火種にならない。  ならば、いっそのことおばさんを道連れにして――。
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