夏の魔物

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『ねぇねぇおねえちゃん! わたあめ! わたあめあるかな?』 『あはは、涼子は綿あめが好きだねぇ。もちろん、あるよ? さあさあ、綿あめは逃げないから、そんなに走らないの! 転ぶわよ~』  当時まだ六歳だった私は、五つ上の姉である温子に手を引かれて、夏祭り会場へとやって来ていた。  私はピンク色を基調とした花模様の浴衣を、姉は濃い水色の中を色取り取りの金魚たちが泳いでいる、お気に入りの浴衣を身に付けてご機嫌だった。  数分後には、地獄に巻き込まれるとも知らずに。 『わたあめ、おいしーね! おねえちゃん!』 『そうだね~。でも、これだけじゃお腹はふくれないかな? 私、焼きそば買ってくるから、ちょっと待ってて? あ、鈴木のおばさん! 少しの間、妹のことをお願いします』  休憩所のテントの中で念願の綿あめを堪能していた私は、たまたま居合わせたご近所さん「鈴木のおばさん」に預けられ、姉は焼きそばを買いにいそいそと駆けていった。  どこかのスピーカーから当時流行っていた演歌が流れていたのを、よく覚えている。  ――「ボンッ!」という爆発音が辺りに響いたのは、ちょうどその時のことだ。
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