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『た、大変! 火事だ! 火事だよ!! ああ、凄い勢いだ! ここも危ないかもしれない……涼子ちゃん、おばちゃんと一緒に逃げましょう?』
『で、でもおねえちゃんが……』
『温子ちゃんなら、きっと大丈夫だよ! ほら、急いで!』
おばさんの予想通り、火は瞬く間に広がり、私達がいた休憩所のテントも焼けた。
私達はそのまま境内の外へと逃げ延び、青年団の人たちが消火作業にあたるのを、ただただ呆然と眺めていた。
遠くからは消防車と救急車のサイレンの音が、幾重にも重なって響いてきていたのを、よく覚えている。
結局、姉は戻ってこなかった。
次に姉と対面したのは、病院の霊安室。奇麗だった顔は包帯でグルグル巻きにされていて、それが本当に姉なのかどうかも分からない、そんな状態だった。
お父さんとお母さんは泣いていた。今も、この季節になると泣いている。
――そして今、私はまた夏祭りの会場へとやって来ていた。
あの頃に着ていたのとよく似た、花模様の浴衣を身に付けて。今度はたった一人で。
死傷者を出した結果、長いこと開催自粛を続けていた夏祭りは、十年の節目を迎えたこの年、ようやく再開にこぎつけていた。
長年に渡り再開に反対していたうちの両親が、心の整理を付けたいと再開を了承したのが大きかったらしい。
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