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(みんな、浮かれてるわね……)
十年前の惨事など無かったかのように、祭りは賑やかに行われていた。
私はそれを、どこか白けた眼差しで眺めながら、当て所もなく境内を彷徨う。キョロキョロと落ち着きなく、視線さえも彷徨わせながら。
――我ながら馬鹿らしい話だが、私はまだ心のどこかに「お姉ちゃんは焼きそばを買いに行って、まだ戻っていないだけなのだ」という気持ちが残っているらしい。
どこかに姉がいるのではないかと、自然と視線が彷徨ってしまうのだ。
(私って、本当にバカ)
子供たちのはしゃぐ声、焼けるソースの匂い、スピーカーから流れる祭囃子。
そのどれもがどこか遠い場所の出来事のようで、私は泣いてしまいそうになった。
こんなことなら、誰か友達にでも付いてきてもらえばよかったと、今更になって後悔して、思わず石畳の上で立ち止まり、空を仰ぐ。
手にした巾着袋が、やけに重い。
――と。
「お姉さん、大丈夫ですか? どこか、具合でも悪いんですか?」
まだ幼さの残る女の子の声が、下から聞こえて来た。
しまった、そんなに目立っていただろうか? と、慌てて「大丈夫」と答えようと声のした方へ顔を向け――絶句した。
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