夏の魔物

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「あ、いけない! 私、焼きそばを買いに行く途中だったんだ! ごめんなさい、お姉さん。先にそこの休憩所に行って、休んでいてください。私も妹を待たせてるので、すぐに行きますから――」  そう言って、姉としか思えない女の子が駆け出そうとする。  ――いけない。この子をこのまま行かせては、いけない。  反射的に、その肩を掴んで引き留める。そのあまりにも華奢過ぎる肩を。 「えっ、何ですかお姉さん? 私、急いでるんですけど……」 「……妹さんを、待たせているのよね? だったら、早く戻ってあげて。妹さん、きっと心細いと思うわ。焼きそばは、私が買ってきてあげるから」 「でも、見ず知らずの人にお願いするわけには……」 「いいからいいから、心配してくれたお礼だと思って」  女の子――いや、姉はそれでも少し不審そうにしていたが、「じゃあ、すみません。お願いします」とお辞儀すると、休憩所の方へと駆けて行った。  これでいい。これで、少なくとも姉と私がはぐれたまま火事が起こることは無くなった。 『――ちゃん!』  きっとこれで、私達の運命は大きく変わるはず――。 『――子ちゃん!』  一体全体、どうして私が過去の世界へやって来れたのか、その理由は全く分からないけど、これで姉を救えたはずだ――。 「涼子ちゃん!」
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