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――私を呼ぶ声に、意識を引き戻される。
声のした方へ振り向けば、そこには鈴木のおばさんがいた。お祭りなのに喪服みたいに真っ黒な服を着ている。
「涼子ちゃん、あなた……そこで何をしているの?」
「何って、私は……」
「時間を超えて、今しがた姉を救ってきた」等と言うわけにもいかない。さて、どうしたものかと考えて、ふと違和感を覚えた。
おかしい、周囲がやけに薄暗い。参道は立ち並ぶ屋台の明かりに照らされて、昼間のように明るいはずなのに。
――そこでようやく気付く。私がいるのは参道ではない。神社の本殿の裏手にある暗がりだった。
私は、神社の壁に向き合うように立っていた。木目がくっきり見える程の、至近距離に。
「あれ? 私、どうしてこんな所に……?」
「涼子ちゃん! いいから手に持ってるそれを仕舞って、ゆっくりとおばさんの方に来て! ……お願いだから」
おばさんが何やら悲愴な声で、必死に私を手招いている。一体何だというんだろう?
「手に持っているそれ」と言うが、私は巾着袋しか持っていない――。
「えっ?」
自分の右手に握られているものを見て、思わずそんな間の抜けた声が出た。
そこにあるのは巾着袋などではなく、暗闇で鈍く光る銀色のオイルライターだった。
蓋は既に開いており、辺りには揮発性のオイルの匂いが充満している。
――これは何?
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