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「早まった真似をしちゃ駄目だよ、涼子ちゃん!」
おばさんの声がやけに遠く聞こえる。
見れば、私の足元にはライターオイルの缶が転がっていた。しかも、複数。
目の前にある神社の壁は何かの液体でべったりと濡れていて、そう言えば私の浴衣も何だかしっとりしていてオイル臭い。
――ああ、そうか。
私はお祭りを見に来たんじゃない。お祭りを燃やしてしまう為に来たんだった。
なんで今まで忘れてたんだろう?
「こんなことしたって、迎え火にもなりゃしないよ! ほら、早く、早くおうちへ帰りましょう? 涼子ちゃん!」
じりじりと、おばさんが近付いてくる気配がある。
ああ、駄目だよおばさん。私はしっかりと火を点けないといけないのに。そんなに近付いたらおばさんも燃えてしまう。
ライターのヤスリをギュっと押さえたこの親指を、ほんのちょっとスライドさせれば、それはもう奇麗な炎の花が咲くのに――。
「涼子ちゃんっ!」
私が火を点ける気配を感じ取ったのか、おばさんが一気に駆け出し、ぶつかるように私の体を抱きしめた。
反射的に親指がヤスリから離れる。
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