1

2/2
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/65ページ
 サンデッキの真中に置かれた肘掛け付きのベンチに、芳之の後ろ姿があった。一糸まとわぬ姿で肘掛にしどけなくもたれかかり、じっとしている。緑と反対色の赤く長い髪と白い肌は、何故か美しく背景に溶け込んでいて、宗教画のように侵しがたい、神秘的な雰囲気を醸し出している。  そばに静かに近付いて、そっとバスローブをかけてやる。 「あ…春臣」  彼はゆっくりとサキを振り返る。芳之が呼ぶサキの本名は、いつも甘い響きだ。 「おはよう。起きてたのか」 「うん」  微笑んだその唇にそっとキスをする。  彼は花が綻ぶように笑うと、また外の光景に目をやる。  雨は静かに降り続いている。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!