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 それは、秋の一日だった。  その日は休日で、特に予定もなく芳之と共に、自宅でゆっくりと過ごしていた。  サキは平日が忙しい分、なるべく休日には予定を入れない主義だ。その日の気分で過ごせるようにしておくことが多い。  昼食後、芳之はいつものように防音室に入った。作曲をしたり、デモを作成したり、自主トレーニングをしたりと、概ね2時間程は出て来ないのが通例だ。一人で集中したいからと、この時ばかりはサキが一緒に入ることを拒む。ヴォーカルが必要な時や、意見を聞きたい時はその都度呼ばれる。  サキはコーヒーを入れ、平日に目を通せなかった経済誌に目を落とす。  何ページかめくり、コーヒーを口に運んだ時、防音室のドアが開いた。  それに気付いて振り返ると、芳之はまっすぐこちらに歩いて来てサキに背中から抱きつく。 「どうした?」 「雨降るでしょ」 「うん?」  そう言われ、窓の外に目をやる。まだ降ってはいないが、薄いカーテンの向こうは曇り空だ。 「ああ、降るかもな」 「ギターの音が悪いからやだ」
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