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鼠色の雲が覆う空の下、その人影は墓の前で膝を付いていた。
「颯月殿………」
そう小さく呼び掛ける人影は、青年へと駆け上がる途中で数えは16になったばかりの少年である。後頭部の上で結った濡れ羽色の髪は冬の風に吹かれてどこか物悲しく揺れ、抜き身の刃を思わせる切れ長の漆黒の瞳は憂いに満たされていた。
「秋也、また親父のとこに来ていたのか」
秋也と呼ばれた少年が振り向くと、後ろには饅頭と摘んだ花を手にした秋也と同じ年の少年が立っていた。
「あの事を悔やんでいるというなら止めろ。別に俺はお前を恨んじゃいねえし、そもそもお前のせいではないだろ」
「しかし……!」
秋也は言い掛けたが、少年の姿に育ての親である颯月の面影を見てしまい俯く。そんな秋也の肩に少年が触れた。
「お前が償いたいのなら、何があっても生き延びること。歯を食い縛ってでも生き抜いて『鬼祓い』の頭領に就くことだ。分かったか」
「私のような人間に生きろというのか………夜萩」
秋也の顔は能面のように固まったままだ。ほんの1年前は、その顔に今よりも喜怒哀楽があったのにと夜萩は溜め息を吐きそうになった。
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