与えられた選択肢

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 刀で斬られた小僧の髪に触れてみる。雑に刀で斬られた髪型は見映えが悪いだろう。小僧が起きたら髪を整えてやるか。かなり短くなってしまったけれど、それで少しはマシになるはず。 「早く目を覚ましてください。貴方のせいで気持ちが落ち着かないのです」 それが無駄だと分かっていても、そう呟いてしまった。  不意に狼に袖を引っ張られ振り返る。すると宮の入り口に一人の少女が立っていた。神代の巫女の姿をした少女。小僧と年齢はあまり変わらない程であろう。だが小僧と同じく大人びた顔をしていた。この少女は小僧と違って本当に年齢は長寿であろう。すぐに理解できる。 「貴方がその少年に使役されている蛇ですか」 鈴のような声音だが、私は小僧ほどその娘には惹かれない。あの神は相当変わり者だったのだ。ならばこの少女もさぞかし変わり者に違いないと何となく思ってしまった。 「そうだが」 「あの方がお待ちです。どうぞ此方へ」 狼を見ると、自分が小僧を見守っているからお前は行ってこいと言っているような気がした。私は立ち上がると小僧のいる宮を出る前に小僧の方を振り向く。そんなことをしても小僧は目覚める訳などなかった。  巫女に案内されるままに大きな建物に着く。中に入ると、建物の外壁と違って中は武家屋敷のようになっていたので、私は驚いた。そして武家屋敷に不釣り合いな神代の衣を身につけた龍神があぐらで座っている。私が龍神の目の前に正座をすると、龍神は話を切り出した。 「やあ調子はどうだい」 「おかげさまで体力は回復しました」 それは良かったと龍神は目を細めて微笑む。 「単刀直入に言うとしよう。君、あの子供の使役であることをやめて、私の眷属にならないかい?」 突然の誘いに私は言葉を失った。
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