はなまるの「あ」

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土曜日になりました。毎週、土曜日は家に両親がいないため、けんたは大抵おばあちゃんの家で過ごしています。 この日もいつものように、おばあちゃんの家で宿題を済ませてから好きなことをするつもりでした。 しかし、到着してから1時間たっても、けんたはまだ宿題に手をつけることができていません。 どうしても、100点の「あ」が書きたくてしょうがないのです。 おばあちゃんが溜め込んでいるチラシをたっぷりもらってきて、けんたはひたすら「あ」を書き続けました。 使ったチラシは、すでに音楽の教科書くらいの厚みに積み重なっていますが、けんたは、いまだに100点の「あ」を書くことができません。 それどころか、だんだん30点や20点のものしか書けなくなってきているような気がします。 けんたの手首が疲れるにつれて、「あ」はだんだん大きく、濃くなっていきました。お腹も空いてきました。そろそろ「あ」には決着をつけてしまって、おやつにしたいところです。 けんたの後ろで、従姉妹のことみお姉ちゃんがピアノを弾いています。 その軽やかな音色を聞きながら、けんたは気持ちを深呼吸して気持ちを整えました。もう何枚目になるかわからないチラシの右下に鉛筆を立てて意気込みます。 (よし、次で決めるぞー!) 1画目、少し右上がりになるように、短い横線が書けました。 2画目、その横線の真ん中、やや左よりを通って、わずかにしなった縦線を書くことができました。 3画目、横線の端っこよりほんの少しだけ左側の下の方に鉛筆の先を置き、思い切って斜め線を引きました。 (いけるかも……) あとは角を作りながら右側に線を回転させれば終わりです。 (よし……!) 鉛筆を上に走らせた時でした。 ポキッ 今の今までチラシの上を走っていた芯が、鉛筆を離れてチラシの上に倒れ込んでいます。 けんたの手元には、先っぽの欠けた細長い棒だけが残っていました。 「そんなぁー!」 けんたは仰向けに寝転がりました。畳の上で手の力を抜くと、コロコロコロ、と小さな音を立てて、芯の欠けた鉛筆がむなしく転がります。 ピアノの音が止まりました。
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