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「で、今度の夏はどうするの? さっきおばあちゃんから電話があって、また店をやろうかって言ってたんだけど」
翌年の、夏休みを間近に控えたある日。
母に聞かれて、私は返答に迷っていました。
今年もまた、いつものように店を手伝いに行こうか。
しかし厨房には入れたとして、やはり接客には自信がありません。
それに、今年はもう、あの店に『彼』はいないのです。
そのことを、あの店に行けば嫌でも思い出して、余計に心細い思いをするかもしれません。
でも……。
――あんな美味い飯が食べられるなら、俺は毎日でもこの店に通うけどなぁ。
私の作る料理を、美味しいと言ってくれた。
たとえ接客が苦手でも、私には料理があるのだと彼は言ってくれたのです。
その言葉を無駄にしたくないという気持ちも、私の胸の中に確かにありました。
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