23人が本棚に入れています
本棚に追加
「あっ。あんたが言ってた例の俳優の子、また出てるわよ。本当に人気よねー」
母はテレビを点けるなり、感心したような声で私に言いました。
見ると、そこに映っていたのはまさしく『彼』でした。
どうやら映画の試写会の挨拶でインタビューを受けている映像のようです。
「いま、気になる女性はいますか?」
と、記者の一人がこれまたド直球な質問を投げかけています。
おそらくは映画の内容が恋愛ものだっただけに、そういった内容をあえて選んでいるのでしょう。
しかし、こんな公の場で馬鹿正直に答える人なんて、よほどの事情がない限りはなかなかいないでしょう。
特に、いま人気の絶頂期である彼が、こんなタイミングでスキャンダルの火種になるようなものを投下するにはリスクが高すぎます。
どこか困ったように曖昧に微笑む彼を、私は今まで以上に遠い存在の人として、液晶画面を通して見つめていました。
すると、
「去年の夏に……」
と、彼が重い口を開き、やがて話し始めた内容に、私は息を吞みました。
最初のコメントを投稿しよう!