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◯
「うっま! 美味い、めちゃくちゃ美味い!! やばい。これミシュラン超えたんじゃね!?」
ミシュランとは超えるものだったのか――なんてぼんやりと考えながら、私は清々しいほどの彼の食いっぷりを見つめていました。
すでに客の姿はない、閉店後の海の家。
がらんとした店内は、いつもならどこか寂しさを感じさせる静けさに包まれるのですが、今日だけは彼のおかげで、その空気感をぶち壊されています。
「よっぽどお腹が空いていたんですね。一体いつからあの状態だったんですか?」
「んー、何時間ぐらい経ってたんだろうなあ。途中まで寝てたからわかんねーけど……。でもコレ、腹が空いてなくてもどんだけでも食えるぞ。本当にめちゃくちゃ美味いから!」
有り余りの食材で用意した、簡単な賄い飯。
それをこんなにも美味しそうに食べてくれるなんて。
別に大した料理ではなかったのですが、ここまで喜んでもらえたのなら、作った者として冥利に尽きるというものです。
食事の前に一度シャワーを浴びた彼は、先ほどまで砂に埋もれていた人物とは似ても似つかない、見違えるようなイケメン青年へと変貌を遂げていました。
身なりを整えるだけで、人はこんなにも変われるものなのかと度肝を抜かれた瞬間です。
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