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「ところで、ここってキミの店? 他に人はいないみたいだけど、まさか一人で営業してんの?」
「いえ。この店は祖母が経営してて、私は夏休みの間だけ手伝いに来てるんです」
私の通う高校はここから山を越えた所にあり、つい二日前から夏休みに入っていました。
私は昨日のうちにここへ来て、今朝から店の手伝いとして厨房に入っています。
「例年なら祖母が店を仕切って、私の他にも親戚が何人か手伝いに来るんですけど……今年は、ちょっと祖母の体調が優れなくて」
世間が夏休みに入る少し前から、祖母は近くの病院に入院していました。
そのため今年は店を開けるかどうかで悩んでいましたが、完全に休みにするのももったいないということで、私を含めた親戚たちで何とか店を回そうということになったのです。
「そっかぁ……。婆ちゃん、早く良くなるといいな。でも、これだけ料理上手な孫がいるなら、きっと婆ちゃんも安心して店を任せられるだろうな」
口の横に米粒を張り付けたまま、彼はそう言って無邪気な笑みをこちらに向けました。
その整った笑顔がやけに眩しくて、私はつい見惚れてしまいました。
数秒ほどボーっと見つめた後、ハッと我に返って視線を逸らします。
「そ、それで……あなたはなぜ、あんな場所で砂に埋もれていたんですか?」
今度は私が質問をする番でした。
こんなにかっこいい人が浜辺にいたら、周りの女性たちはそう簡単に放っておくわけはありません。
なのに、何がどうしてあんな状況に陥ったのか。
私が尋ねると、彼は変わらぬ調子で笑い飛ばすように、
「親父に埋められたんだ」
と、何でもない事のように言いました。
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