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〇
翌日。
隣町から駆け付けた親戚のおばさんと一緒に、私は店を開けました。
「って、ちょっとちょっと。誰よ、あのイケメンは。アルバイトを雇ったなんて聞いてないけど。もしかして彼氏!?」
成り行きで店の手伝いをすることになった彼の評判は、私が想像していた以上でした。
親戚のおばさんも、店に入って来た海水浴客たちも、彼を一目見るなり立ちどころにハートを射抜かれてしまうのです。
昨夜は結局、彼の父君が迎えに来ることはありませんでした。
引き続き一文無しとなった彼は宿代と食事代の代わりに、店の接客を手伝ってくれることになったのです。
「あのぉー、彼女さんとかいるんですかぁ?」
「好きな女性のタイプとかありますか?」
「連絡先教えてくださぁい!」
昼時を過ぎても、彼の人気が衰えることはありませんでした。
女性客たちは店先で彼の姿を目にするなり、花の蜜に引き寄せられる蝶のごとく店内へと入ってきます。
しかし、これだけ多くの女性に囲まれながらも、彼が接客をサボることはありません。
配膳もオーダーもテキパキとこなし、たまにお客さんから連絡先などを聞かれたときはやんわりと断ります。
その断り方もスマートでやけに手馴れているところを見ると、やはり普段から声を掛けられることが多い人なのでしょう。
本当によくモテるんだなあと、私は厨房の片隅から、まるで遠い世界に住む人を見るような気持ちで彼を眺めていました。
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