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◯
「……すみません。さっきはその、ありがとうございました」
夕方になり店を閉めてから、私は改めて彼にお礼を言いました。
対する彼はまるで何事もなかったかのように笑顔で応えてくれます。
「そんな暗い顔すんなって。あんなの気にすることでもないだろ?」
「でも、私……上手く受け答えができなかったので。それで、お客さんもあんなに怒らせちゃって……」
言いながら、私はどんどん自分が情けなくなりました。
こんな思いをするのは、実は今回が初めてのことではないのです。
「私、昔から接客が苦手で……。このお店を手伝うのも、ずっと悩んでたんです。私がいると、お店の雰囲気を悪くしちゃうかもしれないから……だから、手伝いに来るのも、今年で最後にしようかなって」
ずっと、悩んでいました。
他の親戚たちはみんな、問題なくお客さんと接することができるのに、私だけはいつも自然な受け答えができません。
お客さんを目の前にすると、どうしても緊張してしまって、咄嗟に言葉が出てこないのです。
なるべく厨房の外には出ないようにしているのですが、店の構造上どうしても客席から姿が見えてしまうため、今回のように声を掛けられることも少なくはありません。
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