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 やっと夏休みが始まった。  中三の(たちばな)(かなで)と中二の(たくみ)の兄弟は、奏の部屋で、去年買ってもらったはずの『中学生の理科実験』なる本を探していた。  たしか、本には三十種類ばかりの自由研究のネタが載っていたはずだ。  兄弟の通う小さな市立中学では、夏休みの自由研究は、理科か社会科か、どちらか一方でいいことになっている。  二人が選ぼうとしているのは、むろん、理科だ。  奏も巧も、社会科という教科がどうも好きではない。  だいたい、社会科なんて丸暗記でできていると思っているから、社会科の自由研究なんて、何をすればいいのか見当もつかない。  理科だって、見当のつかないことには変わりなかったが、ネタ本があるというのは心強い。  本に書いてあるとおりのものをそろえて、本に書いてあるとおりのことをすれば、本に書いてあるとおりの結果が起こり、考察は本に書いてあることを写せばいい。  たぶん誰だってそうだと二人は信じているのだが、彼らにとって自由研究とは、その程度のものだ。  けれど、その定型通りの実験をやってみたいと思う程度には、彼らは理科好きだった。 「ないなぁ?」  本棚を一通り見てから、奏は首をかしげる。 「それより、下でアイス食べない?」  あくびしながら、巧は言う。  夏休みはまだまだ続くのだ。  そんなに焦って探す必要はない。
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