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二人は、一階のダイニングキッチンで冷凍庫を開ける。
そこには、二人の大好きな『ミルク金時』のアイスバーが常備されている。
エアコンを効かせ、食卓のそれぞれの席に着いて、二人はアイスをなめる。
「それより目下の悩みは、合唱会ですよ」
そう言って、巧が心底、嫌そうな顔をするので、奏は思わずクスッと笑う。
ほとんどオール5の巧が、唯一下手なのが歌だった。
「それなのに、なんで僕が合唱メンバーに入れられるんですかね?」
巧が言う。
「生徒会役員なんだから、仕方ないよ」
「しかも、なんで自分の親の病院で」
「そんなこと言ったって、仕方ないじゃない。昔から決まってるんだから」
橘病院は、二人の父、匡久が院長を務める病院だが、学区内に唯一の病院でもある。
合唱会は、毎年八月の初めに、生徒会とその年の二年生によって行われてきた、学校の伝統行事だ。
橘病院で入院患者向けのレクリエーション・ボランティアとして行われる。
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