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ついに。
この時が来た。
剛はこの2年間、洋介を殺すことだけを考えて来た。
薄暗い墓地に、溶接して異常な形になった金属バット、錆びついた日本刀、ケトルベル(30kg)、リヤカーを持ち込んでいる。
「まだ来ねえのか・・・」
肌に汗がまとわりつく蒸し暑い夏。
時間は21:00。
剛はまだ小6の男子だ。
だが、殺意は真剣そのものだった。
身体中がベタベタになり、集中力が徐々に落ちる可能性を感じて、焦った。
ドゥックンッ…ドゥックンッ…
(確実に殺す。最低でも、意識不明にする)
(意識を残したら、俺は確実に虐殺されるんだ…)
自分の脳天まで心臓の鼓動が響いている。
(この鼓動の響きは、あの時と同じだ…)
剛は恐怖や焦りだけではなく、自分の心の奥で、確かに。この瞬間に強い悦楽と興奮を感じていた。いつも洋介達に拷問される時に感じていた、自分の脳の皺を黒蛇が嘗め回す様に蠢く感覚を感じ取れた。
(隠し持っていたこいつを解き放ってもいい…)
(それだけ、洋介は残酷で下劣で、有害な種なんだ…)
洋介は剛の3つ上の中3だった。父親、二人の兄は暴力団赤川会に所属し、藤川市ではuntouchableな存在だった。屈強な巨体と鍛え上げられた筋肉を持ち、強い顎と、日本人とは思えない程に細く釣り上がった眼をしている。
父親も、二人の兄も殺人罪で受刑したことがある、暴力を生業にする家族だった。洋介は、中学3年生の子供という面影などは微塵もない人物だった。すれ違う誰もに「触れてはいけない世界の住人だ」と感じさせる殺伐さを有していた。
この2年間、剛はずっと洋介に凄惨な集団暴行を受けていた。
合計で76針縫わされ、骨折は9箇所。一生懸命リハビリして治療した膝を、退院後に待ち伏せされて取り巻き50人に囲まれて折られた事もあった。
「いじめ」というような、生易しいものではなかった。
洋介は剛を、自分がこれから暴力で成り上がっていく際の生贄だと考えていた。ヤクザの純血種である洋介は、家族の中でも一際残虐な才能に優れていた。
洋介は、常に取り巻きを50人位引き連れていた。剛への集団暴行はショーであり、洋介が取り巻き達に恐怖を植え付ける広報手段だった。
剛は洋介の先輩数人にアナルを輪姦され、ビデオに録画されたこともある。爪も両手両足、全て剥がされたこともある。剛が仲良しだった幼馴染の裕子をまだ小学6年生にも関わらず目の前でリンチされ、輪姦されたこともある。
この凄惨な暴行は、小4の際に、剛が洋介に喧嘩を売ったことが原因だった。
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