歩きスマホ

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 斯くして正樹は交差点にやって来て赤信号なのに横断歩道を渡ろうとすると、「君!赤だよ!」と言う声に辛うじて赤信号に気づいて立ち止まった。その様子を背後から目を光らせて見ている男がいた。  正樹はそうとも知らず、また男が付いて来るとも知らずに『歩きスマホ』を続けながら駅にやって来た。態々見栄を張るべくスマホを見ながら煙管乗車するために・・・  スマホを持っている人が集まるプラットホームはイケてる者の仲間入りを果たした気分になれ、またスマホを持っていない者に対して見栄を張れる絶好の場所。そう正樹は捉えていた。案の定、半数以上がスマホを見ている。負けじと正樹もスマホを見る。そしてにやにやする。知らぬ間に内方線の内側の盲人ブロックを歩きだし、白線の所に足が及んだ時、後ろから危ないぞと件の男に注意された。  正樹はくるっと踵を返し振り向くと、右足がホーム先端の注意表示に踏み入った。 「全く危ない奴だ。」  男が呆れたように言ってステッキを振り上げると、正樹は驚いてステッキに見入る内、それが大鎌に見えて来た。錯覚だ。否、正樹だけ実体を見せられたのだ。誰によって?男によってだ。  事実、男はにたりとするなり大鎌を振り下ろした。  その途端、正樹はピンポイントで吹いて来た異様に強い寒風に煽られ、ふらっとした拍子に足を踏み外し、その儘、線路に転落した。程なく駅を通過する特急列車に無残にも轢き殺されてしまった。  駅内が騒然とする中、男は平然と地下へ通じる階段を下りて行った。神速と言うべき早業で正樹の魂を掻っ攫ったので。そう、彼は誰あろう死神の化身だったのだ。
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