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その言葉に全員が戦慄した。なぜなら今包囲されている状況で包囲網が解けるだけでも大戦果と言える、本当ならそのまま脱出するのが定石とされるからだ。
「打開...ですか...」
「あぁ、そうだ。最も、私は防衛線を突破されるという大失態を犯したのでこのまま帰国しては打首になるのでな。ここで建て直さなきゃいかんのだよ。協力してくれるかな?」
「ムハハ、まぁ、貴殿らも協力する他あるまいな。」
横から低く鈍い声が聞こえた。
師団長が聞く
「貴方は...?」
「ムゥ?ウェーデン卿、お話されてないのですか?」
「その名で呼ばないくれ...」
軍団長だった女性はウェーデン卿と呼ばれていた。
「いやはや、予想以上に早くきたから説明する暇がなくてな。」
「ハッハ、もう少し時間を潰した方が良かったですかなぁ」
「早くて困る事はないぞ」
「あの、すいません、」
師団長が会話に割って入る
「話す前に名を名乗らぬか。」
「それはこちらの台詞ですよ」
「おっと、そうであったな。私は帝国陸軍第8軍団参謀次長のリーデルフだ。」
「?」
「ム?どうした。」
「第8軍団の参謀は全員死んだとお伺いしたもので...」
「あぁ、儂はウェーデン卿と共に出向いていたから無事だった。その他の参謀は全員くたばったわ。
ムハハハっ!」
「んで?そちらの名は?」
「私は第2師団師団長のカイだ。」
「カイ...か。いい名だ。」
会話に割って入ったのはウェーデン卿だ。
「よし、無駄話は終わりだ。」
「ルーデルフは近辺の敵の数を調べてきてくれ。お前に1中隊を付与しよう。それで事足りるだろう。」
「了解した。しかし一個中隊では少し少ないのぉ。ウェーデン卿の兵も少し借りるぞ。」
「....。無理な突撃命名をしないで下さいよ。大事な兵ですから。」
「ムハハ!流石に今はそんな事せぬわぁ!それでは!検討を祈るぞ!」
ルーデルフは威勢の良い声を放ち大股で歩き指揮所を後にした。
「...カイ、と言ったな...」
「はい。私は何をすれば」
「カイは第2師団の残存兵力を調べろ。それと新たに加わった兵力は2万8千人、つまり3師団だ。自動車化師団は1師団、歩兵師団が2師団だ。それらははっきり言って各所からの寄せ集めた烏合の衆だ。士気も決して高くないし統率率も低い。だからその師団の再編成を頼めるか」
「お安い御用です。」
「助かる。」
「それと1つ質問いいですか。」
「答えられる範囲なら」
「私はあなたの事をなんとお呼びすれば...?」
「そうか、まだ言ってなかったな。私はゲーデルと呼べばいい。敬称はいらない。」
「わかりました。それでは行って参ります。」
「お前達も行くぞ。」
「ハッ!」
参謀達の声が響く。
「ハハ、さっきまで蹲っていたのが嘘みたいだ」
参謀の一人が言う
「さっきのは本当に絶望してましたからなぁ。こんなに援軍が来てしまえば泣き言なんて言ってられません。」
ゲーデルが答える
「それもそうだな。お前達も検討を祈るぞ。」
「難有きお言葉」
「それでは今度こそ失礼します。」
師団長がそう言うとゲーデルは「あぁ。」とだけ言った。
ガチャン
ドアの閉まってから少しの間、ゲーデルは少し考え事をし、椅子に深く腰掛けてこう言った。
「カイ...か。また随分懐かしいな。」
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