少女がまだ雛の頃

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少女がまだ雛の頃

「お嬢様! どうか降りてきてください!」  下のほうから焦った声が聞こえる。しかし少女の興味は樹の上にあるのだった。その声は聞き流して、上へ上へと登っていく。樹の下で彼女を呼ぶ従者が心配してくれているのはわかるけれど、それより重要なこと。 「もう少し……」  じりじりと手を伸ばす。その先にはぴぃぴぃと鳴き声をあげる鳥の雛がいる。雛なのでなんの鳥かはわからない。けれどわかるのは、てっぺんに近いほど高い部分にある巣から落っこちてしまったということ。  通りかかってそれを見つけた少女は、放っておくことなどできはしなかった。生来のお転婆を発揮して、樹へと足をかけてしまった次第。  少女が樹の太い枝まで登ったところで、彼女がいないことに気付いて探しに来ていた従者がそれを見つけた。  樹の下から呼んでくれるけれど彼はもう随分大人に近付いているのだ。こんな樹に登れば枝が折れてしまうだろう。よって、はらはらと呼びかけるしかないのだ。  それをいいことに、というわけではないが、少女は制止も聞かずに、鳥の雛に手を伸ばしたのだけど。  そのとき、ひゅっと風が吹いた。少女がそのとき足をかけていた枝はだいぶ細かったので、ゆらりと揺れて、少女の体はふらっと傾ぎ……。 「お嬢様っ!」  ぐらっと揺れ、宙に放り出される。従者の聞こえたのも、どこか夢のようだった。  落ちる。  気持ちの悪い浮遊感が体を包んで、地面に叩きつけられる衝撃を覚悟してぎゅっと目を閉じたときだった。  ぼすっ。  なにか、しっかりしてやわらかいものが少女の体を包んだ。  痛くない。はじめに思ったのはそれだった。    それどころか、やわらかくてあたたかい。地面であろうはずがなかった。  そろそろと目を開けると、少女の目に、固くなっている翠の瞳が映った。よく知っている、その色。少女が目を開けて、視線が合ったことにほっとしたようで、ふっと緩む。 「間に合って、良かった……」  自分は枝から落っこちて、従者の彼に抱きとめられたのだ。  理解して、一気に罪悪感が生まれた。自分が勝手をして、しかも危ないことをしたのに、助けてくれた。  やっと、少女は口を開いた。 「ごめんなさい……フレン」
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