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「何か依頼を受ければ、あんたがミスばっかりするせいで、全然依頼が来なくなったんじゃない!!
そればかりか、従業員まであんたのミスに巻き込まれるのが嫌で、み~んな辞めて行っちゃったのよ!どうしてくれんのよ!」
全て図星であった。
あまりに図星過ぎて、涼香は何も言い返せなかった。
「おかげでうちの万屋は閑古鳥状態よ。おまけに町中で悪い評判が立っちゃって、仕事してくれる従業員すら居ないんだから!」
「へへへ・・・。ホント困っちゃうよね。」
「笑い事じゃないわよ!・・こんなあんたの姿見たらきっと伊吹君がっかりするわよ。」
“伊吹”という名を聞いて、涼香はピクリと反応した。
“伊吹”とは涼香は幼馴染。
小さい頃から伊賀の忍びの里で、共に忍びとして育ってきた。
伊吹は内向的な性格。
一方の涼香は活発な性格で、同い年ではあったが、いつも伊吹に対して弟のように世話を焼いていた。
伊吹もそんな涼香を慕い、いつも彼女の背中を追いかけていた。
伊吹はしょっちゅう里の子どもたちにいじめられていた。
その度に涼香がいじめっこたちから、伊吹を守っていたのだ。
こんな感じで二人はいつも一緒だった。
しかし、別れは突然やってきた。
伊吹が修行の旅に出ることになったのだ。
そのとき、涼香はわんわん泣いて反対したが、結局5歳の時に修行に行ってしまったきり。
それから12年の歳月が経ったが、彼からの音沙汰は一切なし。
どこで何をしているのか、全く分からない状態だった。
そんな中、戦乱の世は終わり江戸時代となり、忍びの存在は徐々に世の中から消えて行った。
“必ず強くなって、帰ってくる”
そんな幼い頃の約束をまだ、彼女は信じていた。
そして、彼から貰った角笛も、毎日肌身離さず身に着けている。
「伊吹君が修行の旅に出てもう12年経つのね。一体どこで何してるのかしらね。」
「分からない・・。けど、伊吹は必ずここに帰ってくるわ!だって約束したんだもん。」
「・・・涼香・・。」
涼香はいつも伊吹から貰った角笛を首にぶら下げていた。
傍に居なくても、いつも伊吹が一緒にいてくれるような気がするからだ。
彼女にとって角笛は、いつしかお守りのような存在になっていた。
「だったら、伊吹君が帰ってきたとき恥ずかしくないように頑張って仕事しなさい!」
「は~い。」
昌美に正論を言われた涼香は、渋々頷いた。
「それじゃあ、町に行って来て依頼のひとつでも取ってきてちょうだい!」
「しょうがない!行くか!!」
涼香は重い腰を上げ、町へと向かった。
一方、町では一人の若い男が団子屋の亭主に道を尋ねていた。
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