0人が本棚に入れています
本棚に追加
「分からない。しかし、この森は一度足を踏み入れたら、二度と出てこられない人間もいるらしい。」
そんな恐ろしいことを冷静に言う伊吹に、涼香は身震いした。
「あんた、よくもそんな恐ろしい事が平気で言えるわね?」
「別に。事実を言っているだけだ。」
(相変わらず、愛想悪いんだから!せっかくこの前はちょっといい奴かな~?なんて思ったのに!!)
涼香は心の中で呟いた。
「ミミ~!!どこにいるの~?」
涼香は大きな声で仔猫の名を呼んだ。
捜索を開始して一時間。
仔猫の気配は全く無く、あたりは怖い位にしんとしていた。
(考えてみれば、こんな森の中で仔猫一匹探し当てるなんてなかなか大変な依頼じゃない?
お金に目がくらんでついオーケーしたけど、このまま生きてここから出られなかったらどうしよう・・?)
次第に不安な気持ちが湧いてくる。
「涼香、大丈夫か?」
突然、後ろを振り向いた伊吹に涼香はびっくりした。
「なによ、突然!びっくりするじゃない!」
「いや、お前の事だから依頼を受けたことを今更後悔してるんじゃないかと思ってな。」
図星である。
あまりに痛いところを突かれて、何も答えられなかった。
「お前は昔から、無鉄砲な奴だからな。」
「悪かったわね!それよりも、馴れ馴れしく名前で呼ばないでよね!!」
「どういうことだ?」
「あたしはまだ、あんたを伊吹だと認めたわけじゃないんだからね!」
「お前はまだそんなことを言ってるのか。」
伊吹は呆れた様子で言った。
「それじゃあ、どうしたら俺が本物の伊吹だと認めるんだ?」
「それは・・・。」
と、涼香が言いかけたとき、涼香は思い切り足を滑らせてしまった。
「きゃああああああああっっっ!!!!!」
「涼香!!」
伊吹が急いで手を伸ばしたが、もうすでにそこには涼香の姿はなかった。
つづく
最初のコメントを投稿しよう!