第六話 「よみがえる記憶」

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(昔の伊吹はもっと優しくて、いつだってあたしの事を大切にしてくれていた。いつも笑顔であたしの側に居てくれたのに。本当に彼は“伊吹”なの?) 涼香はいつも身に着けている角笛をギュッと握りしめた。 (分からない、もし、あいつが本当に“伊吹”なら。どうして、あたしとの約束を忘れてしまったの?彼にとってあたしは、その程度の存在だったの?) 涼香の瞳に涙が浮かんだ、その時。 「涼香!!」 涼香は自身を呼ぶ、男性の声が聞こえた。 「・・・どうして、あんたがここに・・?」 涼香はあまりの驚きに立ちすくんだ。 そこには泥にまみれた、伊吹の姿があった。 「無事だったのか。」 「・・うん・・。」 涼香は一瞬、伊吹が安堵の表情をしたかのように見えた。 意外だった。 まさか、彼が自分のことを探しに来るとは思っていなかったのだ。 「あんた、どうしてここに?」 「涼香が崖から落ちた後、涼香が落ちていった崖をそのまま下って来た。」 「あたしのこと、探しに来てくれたの?」 「お前に何かあったら頭領に顔向けできないからな。」 「・・そう・・。」 涼香は、自身の胸が締め付けられるような感覚に陥った。 (あいつは、父さんに何か言われるのが嫌で、仕方なくあたしを探しに来たのね。) 涼香はため息をついた。 しかし、次の瞬間、涼香は仔猫の鳴き声のようなものを聞いた。 (・・・今の鳴き声って・・?) 「とにかく、このまま暗くなる前に一旦、この森を抜けよう。」 「待って!あそこ!」 涼香が指指した先には、仔猫の姿があった。 「あの子よ!日和ちゃんが言ってた仔猫って!!」 「ミャ~~~!!」 仔猫はかなり高い木に登り、自分では降りられないような様子だった。 「助けなきゃ!!」 伊吹は助けに行こうとする涼香の手を掴んだ。 「何するのよ!?」 「待て!木の向こうは崖だぞ!」 伊吹に言われもう一度木の向こうを確認すると、数十メートルはある高い崖があり、その下には急な川が流れていた。 「こんなところから落ちたら命はないぞ。」 「でも、あの仔猫を助けなきゃ!日和ちゃんはあの子の帰りを待ってるのよ!」 「涼香、これ以上は危険だ。今回はもう、諦めて「冗談じゃないわ!!」 伊吹が言い終わる前に、涼香の声が遮る。 「“諦める”ですって!?それじゃあ、あの仔猫はどうなるのよ!?」 涼香の問いかけに、伊吹は何も答えなかった。 そんな伊吹の手を、涼香は思い切り振り払った。 「もういい!あたしは助けに行くから!!」 「涼香!待て!!」 涼香は伊吹の言葉を無視して、木に登った。
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