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「いや~、伊吹君が来てくれただけでも助かったのに、涼香ちゃんまで手伝ってくれるなんて助かるな~。」
「そんな、お役に立てて嬉しいです。」
伊吹がアルバイトをしている薬屋は、涼香たちの行きつけの薬屋だった。
そして、この薬屋の亭主の名前は“薬師唐大”と言い、涼香が幼いころから怪我をするたびにお世話になっていた。
「それにしても、涼香。どうして急に薬の勉強なんてし出したんだ?」
伊吹は不思議そうな顔で涼香を見つめた。
「ほら!昌美姉ちゃんが言うように、あたしも薬の事とか勉強しといた方がいいかな~、なんて思ってさ!!」
「そうか。いい心がけだ。」
伊吹が納得した様子で、作業を再開するのを見て、涼香はホッとした。
(言えるわけないじゃない。伊吹の事がもっと知りたくなったなんて・・・。)
前回の仔猫騒動のとき、涼香は幼い頃の記憶を思い出した。
5歳のとき、川に溺れた自分を助けた人物と、前回助けてくれた人物。
それは確かに“伊吹”だったのだ。
それ以降、彼は“伊吹”なんだと認めてしまうと、妙に意識してしまう。
伊吹に対して、どのように接していいか分からなくなってしまったのだ。
唐大は何か察したのか、そんな涼香の様子をじっと見つめていた。
「それにしても伊吹君は本当に薬に詳しいんだね。」
「はい、修行に出ている間に薬草の勉強などをしているうちに、調合も出来るようになりました。」
「そっか。勉強熱心なんだね。彼が来てくれてとっても頼もしいね、涼香ちゃん?」
唐大はニコリと微笑んで言った。
「えっ!?ああ、そうですね~。」
唐大はいきなり話を振られて、焦る涼香を見てくすくすと笑った。
伊吹はそんな二人の様子を、不思議そうな顔で見ていた。
そんな話をしていると突然、店の扉が開いた。
「た・・、助けて・・。」
顔面蒼白の女性が、ふらふらと店の中に入って来たのだ。
「どうしたんですか!?」
急いで涼香が駆け寄ると、女性はバタリと倒れた。
伊吹と唐大も慌てて駆け寄ったが、女性は意識を失っていた。
「どうやら、気を失っているようだ。とりあえず奥の処置室に運ぼう。」
唐大の判断の下、三人は女性を処置室まで運んだ。
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