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学生時代からの自分の趣味趣向を自己否定することは思ったよりも辛かった。
(断捨離を始めて、すぐにこんな夢でうなされるなんて……)
永井さんの私服姿は以前、会社内のイベント写真で確認済みだ。
シンプルだけどセンスの良い、今時のサラリーマンの私服姿そのものだ。
私の甘いテイストの洋服は苦手に決まっている。
私は頭まで布団を被り、その中で呪文のように永井さんの名前を唱えて、無理矢理、眠りについた。
なかなか眠りにつけない日が何日か続き、ようやく無駄な物がない部屋に慣れ始めた頃。
会社で仕事をしていると、仲の良い同期の子に声をかけられた。
「ねぇ、最近あんた酷い顔してるよ。目の下クマできてんじゃん。永井さんも心配してたよ」
「え?! 永井さんが心配してたの?」
「うん、それと永井さんにチェックしてもらった書類にミスがあったって。あんたにしては珍しいとも言ってたよ。こっそり私に何かあったのか訊いてきたんだから」
クマに気づかれていたことも、仕事のミスも大失態だけど『永井さんが心配していたよ』という言葉に思わず、推しキャラの決め台詞『それって逆にチャンスじゃん』が口を衝いて出てしまいそうになる。
(危ない危ない……こんなの少しでもアニメに詳しい誰かに聞かれて永井さんの耳に入ったりでもしたら、断捨離までした苦労が水の泡……)
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