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私が挙動不審なリアクションをしていると、同僚は『はぁ?』という表情をして去っていった。
洋服や持ち物は誤魔化せても、ふとした言動に滲み出てしまうのが『オタ』の怖いところだ。
まだまだ永井さんに気に入られる女性になる為には努力が必要だ。
(今度、OL向けの雑誌でも買って、ファッションやメイクの路線を変えてみようかな)
断捨離済みの部屋だって、もしかしたら、これから先、会社の人達と永井さんが遊びに来ることがあるかもしれない。
(やっぱり、断捨離して良かった!)
身勝手な妄想でテンションが上がり、軽やかに通路を歩いていると、正面から永井さんが歩いてきた。
「お疲れ様、こないだは資料作成ありがとうね。急に頼んだのに早く仕上げてくれて助かったよ」
「あ、あの……」
緊張しすぎて、なかなか言葉が出てこない。
「ん?」
背の高い永井さんが少し身を屈めて、私の言葉に耳を傾けてくれようとする。
(ち、近い!!)
「あの、私の作成した資料に間違いがあったって聞きました。すみませんでした!」
「ああ、いいのいいの。急に頼んだからね。でも高橋さんにしては珍しいから少し心配で……それと、この間、これ落として行かなかった?」
彼の白くて長い綺麗な指の間から、私が普段持ち歩いていた、推しキャラのアクリルキーホルダーが姿を現す。
(え、えっ⁉ 何これ、どういうこと?)
私は、あまりのショックに立ち眩み、崩れ落ちるように床の上に倒れた。
「ちょっと、高橋さん?! ちょっと、大丈夫?」
私の名前を呼ぶ永井さんの声が、どんどん小さくなっていった。
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