それは捨てちゃダメ

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――目が覚めると、そこは会社の医務室だった。 私はベットに寝かされていた。 (確か、あの時、永井(ながい)さんと……そうだ、アクキー見られちゃったんだっけ。いくらアニメに疎い人でも、あんな分かりやすいキーホルダー見たら『オタ』って気づかれちゃったよね。) 自分の詰めの甘さに落胆し溜息をつく。 覚悟を決め、ベットで上体を起こしてみると、少し離れたところに永井(ながい)さんが座っていた。 傍にいてくれたとは思いもせず、恥ずかしくて、どこに視線を向ければいいのか分からない。 (もう、顔もまともに見れないよ……) ――そう思った瞬間。 「おっ! 大丈夫? なんかアクキー見た瞬間に倒れちゃうから、びっくりしたわ」 (え⁉ 永井(ながい)さんが『アクキー』?) 「ほれ、俺も『オタ』なんだわ」 永井(ながい)さんが見せてくれたのは、女性アイドルユニットの成長をテーマにした人気アニメのキャラクターのアクリルキーホルダーだった。 思考が追い付かず、どう永井(ながい)さんと話せばいいか分からなかった。 「実はさ……一回、アキバのアニメショップで、高橋(たかはし)さんを見かけたことがあるんだ」 「嘘ですよね。ハハハ……」 あまりの展開に笑うしかなかった。 「ほんとに。俺も彼女といたから声かけにくくてさ、でも会社にオタ仲間ができて嬉しいわ。あのさ、隣の部署の……」 それから永井(ながい)さんは嬉々として、アニメの話やら、声優の話しやらを楽しそうに語っていたが、私には永井(ながい)さんに彼女がいたという事実もショックで、ろくに話が耳に入ってこなかった。 付き添ってくれた永井(ながい)さんにお礼を言い、医務室を出ると、ここ数日の疲れが一気に溢れ出てきた。 断捨離してまで、追いかけた先輩には彼女がいた。 しかも彼女も彼のオタク趣味を理解していて…… (私の苦労はなんだったの!)
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