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「俺、りんご飴買ったことないわ……」
何故『夏の思い出』を買ったのか。
それは俺の中にこの思い出がないからだ。
俺はりんご飴なんて買ったことはない。
これを買った時の、あのふわふわとした感覚……あれは……高揚感……。
あの時、子供の頃は買えなかった——いや、たこ焼きとかそういうものの方が好きだったから買わなかった——。
だから、俺は買ってしまったのだ。
存在しない思い出、縁日の光景の中にぽっかりと空いた空白を、埋めようとして——。
……などと深いようなどうでもいいような、酔ったせいで物凄いノスタルジックなようなよくわからない気分に浸っているからこそ、酒が美味い。
こういう何かしながら酒を飲むってのも、悪くはないものだ。
俺は小さく笑って、出来上がった『夏の思い出』を棚に飾った。
今度、縁日に行った時、気が向いたらりんご飴を食べてみようとふと思った。
気が向かなかったら……それはそれでいい。思い出は、どこにでも売ってる時代なのだから。
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