【1話】2人でイチャイチャしながら、竹下通り歩いてみた!

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【1話】2人でイチャイチャしながら、竹下通り歩いてみた!

<side Yuma>  平日昼間。それでも人で賑わう竹下通りに、女の子の高い声が響き渡った。 「あ────っ!」  彼女の指先は俺、『ゆうま』こと新道佑真の……いや、『俺たち』の方へ向けられていて、その目は嬉しそうに輝いている。 「動画いつも見てます! ゆうまおさんですよね!?」  俺たちは一瞬お互いを見つめ合って、苦笑いした。  “最近、こういうの増えたね”のアイコンタクトが、なんとなくくすぐったい。 「そうだけど、ちょっとだけ声が大っきいかな。ほら、他の人びっくりしてるよ」  相方の『まお』こと藤城茉桜が、ピンクのグロスが乗った唇に人差し指を当ててたしなめた。 「っ、すみません……! あの、写真いいですか?」 「ああ。3人一緒でいい?」 「はい!」  差し出されたスマホを受け取り、俺たちと女の子は肩を寄せ合う。  カシャッ。  小さな電子音と共に、3人の笑顔が画面に記録された。 「ゆうまおさんみたいなカップルになるのが、私の目標でっ。これ待受けにして頑張ります! ありがとうございました!」  弾んだ声に手を振って、2人で小さく息をつく。 「んじゃ、行きますか」 「こら、ゆうま。外では敬語禁止」 「うっす」 「てかさ、もう普段からタメ語にしようよ」  まおさんが俺の顔を覗き込むと、カラーで出せるギリギリまで明るくしたボブヘアーが、軽やかに揺れた。 「い……一応俺は19歳で、まおは20歳だろ。そこは大人に対する敬意っつーか」 「別に良くない?」 「あー、ほら。まおが見ようって言ってた店」  俺は話をそらしつつ、ポップな色どりのTシャツがたくさん飾られたアパレルショップにまおさんを誘導する。 「わぉ、どれも可愛い!」 「画的にも映えそうだな」 「お? ゆうまもプロっぽいこと言うようになったねぇ」 「そりゃ俺だって、1年ぐらいユーチューバーやってるし」 「じゃあ、今回はゆうまが選ぶ?」 「ペアルックで動画撮ろうって言ったのまおなんだから、まおも選んでよ」  わちゃわちゃしている俺たちの元に、同年代っぽい男性店員がやってくる。 「いらっしゃいま……あれ、もしかしてゆうまおさん?」 「あ、そうです」 「僕、ファンなんですよ! カップルチャンネルって色々あるけど、1番好きっす」 「ありがとうございます!」 まおさんの顔に、笑みがこぼれる。 (……ちくしょー。相変わらず可愛いな) 「もしかして、動画でうちの服着てくれるんすか?」 「はい! ペアルックで撮影しようって企画で。お店の名前、出しちゃっても平気ですか?」 「ぜひぜひ!」  楽しげに会話するまおさんと店員の間に、俺は軽く割って入る。 「画的に映えそうなハデなやつ、選んでもらえますかっ!」 「あ、はい! かしこまりです!」 「ん……?」  店員が棚の間に消えた後、まおさんのでっかい瞳が俺を見上げてきた。  やべ、不自然だった? 「これなんかどうです?」  張り切って店員が選んできたのは、ピンクの生地にゆるいタッチのシロクマが描かれたTシャツ。 「やだ、可愛い!」 「ゆうまってば、反応が女子!」  二の腕に、ポンとまおさんの手が触れる。その体温が、ちょっとだけ俺の心拍数を上げた。 「これお揃いで着て動画撮ったら、間違いなくウケますよ〜」 「めっちゃいいっす! ナイスチョイス!!」 「ゆうまって、そんな可愛いもの好きだったっけ?」  ちょっぴりあきれながらも、まおさんは身体にTシャツを当てる。 (やっぱいーじゃん!)  心の中でガッツポーズ。  別に俺は、可愛いものがめちゃくちゃ好きなわけじゃない。  でも、可愛い服を着たまおさんは……大好きだ。  「俺、これがいい。まお〜、これにしよ?」  Tシャツを両手で持って、ちょっとだけ上目遣い。必殺、年下あまえんぼ攻撃。  それは狙った効果を発揮したみたいで、まおさんの表情がふわっと柔らかくなる。 「しょーがないなぁ。じゃ、それで」 「やった!」  会計を済ませて店の外へ出ると、まおさんが俺の方へ片手を差し出した。 「帰ろっか」 「……うん」  時間は、中高生の下校時刻。  竹下通りを歩く制服の子たちが時折こちらを指差して、はしゃいだ感じで会話している。その中を、差し出された小さな手を握って歩き出す。  と、まおさんが不意に俺の耳元へ顔を寄せた。 「やっぱ、ゆうまおはラブラブじゃないとね?」  細い指先が、きゅっと俺の指に絡む。  まおさんの口調は甘いというより、面白がっているような感じだったけど……好きな人とこの距離感でいれば、ドキドキするのは止められなかった。  その夜、所属している事務所の指令で一緒に住んでいるマンションで、さっそく俺たちは動画撮影を開始。 「『恋人とイチャイチャするだけの簡単なお仕事中!』」 「『ども! カップルユーチューバーの、ゆうまおです!』」  お互いの人差し指と親指の先を合わせてハート型を作り、お決まりの挨拶をテンション高くコールする。 「今日は、ペアルックしてみた〜! ということで、ゆうま選手、今のお気持ちは!?」 「えーと、ひかえめに言って最高かな! まお、ピンク超似合ってるし!」  チャンネル登録者数は、現在50万人。  某ティーン向け雑誌では「あこがれのカレカノ像」第1位。  可愛いと美人の真ん中ぐらいで、さっぱりした性格の年上彼女『まお』と、子犬系男子の年下彼氏『ゆうま』で構成される『ゆうまお』は、主にティーンエイジャーから熱い支持を受けている、いわゆるカップルユーチューバーだ。  誰が見たって羨ましくなるような、完璧仲良しの2人。  ──でもこの恋は……実は俺の、絶賛片思い中。 つづく。
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