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【3話】デート企画でガチ告白してみた!
<side Mao>
「ロケ企画をやります!」
洒落た観葉植物なんかが置かれる事務所の一室で、私たち『ゆうまお』のマネージャー・史子さんは高らかに拳を突き上げた。
「珍しっすね。史子さんがそんなテンション高いの」
隣に座る相棒・ゆうまは、さっき史子さんにもらったバナナジュースを飲みながら尋ねた。ぶかぶかのパーカーの袖から、ちょこんと指先だけ覗いている。
私も同じジュースを一口飲んで、続きを促すように史子さんを見る。
「どんな企画ですか?」
「ロケ地はお台場、クイーンズフォート。今度新しくオープンする複合施設ね。展望台に水族館、ショッピングモールにレストラン街……っと、ここまでは定番だけど」
『新たな恋人の聖地に』を合い言葉に、施設内にはフォトスポットがわんさか用意されており、施設中央の噴水広場ではプロジェクションマッピングを使用したロマンチックな空間が演出されるらしい。
「2人には、ここで存分にいちゃいちゃしてもらうわ」
「つまり……提供動画」
「ええ」
きらり。眼鏡越しに史子さんの瞳が光る。
「お金がもらえる! 万歳! ゆうま、これは稼げるよ!」
「う、うん、そっすね」
ついつい、ゆうまの肩を掴んで揺らしまくる。ああ、きっと私も今、史子さんみたいに目がドルマークになってるんだろうな。
「じゃ、スケジュールは後でメッセ送るから。企画書ちゃんと目を通しておいてね」
「はい!」
がっつり握手を交わし、企画書を受け取って帰り支度を整える。
そしてスマホで時間を確認して……慌ててゆうまの袖を引っ張った。
「やば、タイムセール始まる。ゆうま、走るよ。私たちの一週間分の食料がかかってるんだから!」
「……あいあいさー」
──数日後。
「『恋人とイチャイチャするだけの簡単なお仕事中!』」
「『ども! カップルユーチューバーの、ゆうまおです!』」
私たちはロケ地の入り口で、お互いの人差し指と親指の先を合わせてハート型を作った。この挨拶も慣れたもんだ。
「今日はねー、デートに来ちゃってます! ゆうま、ここがどこだか説明してちょーだい」
「知ってる人もいるかな? なんと! オープン前から話題沸騰中の『クイーンズフォート』に特別に招待してもらっちゃいましたー!」
技術スタッフの二瓶悟さんにカメラを回してもらい、史子さんと施設スタッフさんに連れられてロケは順調に進んでいく。映えるデザートショップ巡りに、海外の若者に人気のファストファッションブランドで買い物、休憩ついでにアクアリウムでまったり。3本分くらいは撮れ高あるんじゃないかな、これ。
「さてさて。クイーンズフォート内を堪能しまくったわけですが……」
「待って、まお。最後ちょっと寄りたいとこあるんだ」
これは台本。
最後に目玉である噴水広場で、ロマンチックにゆうまが再告白。っていう企画ね。
「いい? まだ目、開けないでよ」
ゆうまが目をつぶった私の手を引いて、噴水広場に連れて行く。
「到着。まお、見てみて」
「わ……」
思いがけず目を奪われた。
ヨーロッパ風の内装の広場。天井にはプロジェクションマッピングで星空が描かれ、雪のように舞う光の粒を、きらきらと噴水の水が弾いていく。
演出のうちだろうか、冷房が効いていて、吐いた息は白かった。
「綺麗……」
本音が零れると同時に、ふわり、と。肩に上着がかけられる。
ゆうまが羽織っていたパーカーだ。ゆうまの匂いがする。
「ごめん、ゆうまが寒くない? てか、もうちょっとあったかいとこ移動しよっか」
「ん? いいよ、見てなって」
雪の輝きを映した瞳が、とろけるように私を見つめた。
仄暗い空間の中で、遠く時計の鐘の音が響く。
「俺はまおの楽しいって顔、見てたい」
柔らかな声が紡ぐ言葉は、心ごと抱きしめてくれるように優しくあたたかい。
全く、全くゆうまは──
「最高だよ! 今最高にカップル感出たよ!」
「へっ?」
大型犬よろしく、ゆうまの頭をわしゃわしゃに撫でる。
「これでまた再生数伸びるね! 稼げちゃうね〜!」
「ちょ、ちょちょちょ、まおさん、カメラ回ってますって!」
あ、やば。
ばっとカメラを見ると、悟さんは無言で親指を立てていた。
「音流したり、いい具合に編集するんで。好きにやっててください」
「ありがとうございます!」
悟さんの隣で史子さんも親指を立てている。どうやらいい画が撮れているらしい。
「ねえ、まおさん……」
好き勝手撫でくり回されていたゆうまは、どこか拗ねたように私の耳元に唇を寄せた。
「まおさんって普段プロ意識の塊なのに、なんでお金の話になると急にがめつ……テンション上がっちゃうんすか」
「んー。お金って大事だから?」
「そりゃ、そうっすけど」
唇を尖らせてる年下の私の相棒は、“ある人”の表情と重なる。
胸の奥がきゅうっと狭まるような、愛おしさと、使命感。募る想いはしっかりと自分の中に仕舞い込んで、ゆうまにはいつもの笑顔を見せた。
これは私の事情だ。私だけが背負うべきものだ。
そう。私には──稼がなきゃいけない理由が、ある。
つづく。
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