【4話】相方の本音にニヤニヤしたら負けゲーム!

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【4話】相方の本音にニヤニヤしたら負けゲーム!

<side Yuma> 「料理動画は先週やったし、お出かけ系は編集中だし……」 「俺的には、『ウェディングソングのPVやってみた!』が良いと思うんすけど」 「え」  企画会議の最中、まおさんが一瞬真顔になる。  俺が提案したのは、男女ユニットのアーティストがイチャラブセクシーなPVで話題になっている一曲だ。 (クイーンズフォートの告白もあっさりスルーされたし、とにかく俺のこと意識してもらえるようなネタにしないと!)  しかしそんな決意を知らないまおさんは、首を小さく横に倒した。 「あれはちょっとなー、ゆうまおっぽくない気がするんだよね」 「あー……ですよね」 「絵的にハデでバズるやつないかなー。YAHHOニュースのトピに上がりそうな」  そう、まおさんの最大の関心事は常にこれ。話題になる、再生数、バズる、収益…… (俺なんて、ただの金稼ぎの相方としか思ってなさそう)  でも、悲しいかな俺はそんなまおさんのことが好きで。  せめて俺に、もう少し関心を持ってもらえたら── (……そうだ!) 「まおさん、2人で勝負するのとかどうっすか?」 「勝負? いいね、惹きありそう!」 「ただの勝負じゃないっすよ。『お互いの好きなところを言い合って、ニヤついた方が負け』」 「それいいじゃん! カップルっぽいし、ラブラブ感ある!!」  まおさんは瞳を輝かせて、小さく拍手する。  ふっと思いついたネタだったけど、まおさんが俺のことどう思ってるか、これでちょっとは探れるかも……?  我ながら悪くないと思いつつ、俺はさっそく動画撮影の準備を開始した。 「『恋人とイチャイチャするだけの簡単なお仕事中!』」 「『ども! カップルユーチューバーの、ゆうまおです!』」  2人の指先でハートマークを作って、今日も収録が始まる。 「さて! 今日はゆうま考案のゲームで、真剣勝負しちゃいます」 「題して『照れたら負けよ、お互いの好きなとこ言っちゃいましょゲーム』!」  多分、この辺りは二瓶さんの演出で紙吹雪やら『イエーイ』みたいなSEが入ると思う。  ユーチューバーを始めて1年、なんとなくどんな編集が入るかも考えながら収録出来るようになってきた。 「このゲームはその名の通り、相手の好きなところを交互に言い合って、照れたら……というか、ニヤついたら負けというシンプルなルールです」 「勝者には中目黒のパティスリー、マリカラさんのプリンをご褒美に進呈!」 「これは負けられねぇ!」 「というわけで、さっそくやってこー!」  公平にするため、今日は俺とまおさんの顔を正面から捉えるカメラ2台も設置してある。  じゃんけんで先行に決まった俺は、まおさんの顔をまっすぐ見つめる。 「……可愛い」 (あ、やべ)  ぽろっと口から零れたのは、紛れもなく俺の本心だった。  でも、まおさんはあくまでゲームと思っているらしく、眉ひとつ動かさない。 「優しい」  短い俺の言葉に呼応するように、まおさんもさらりと言う。 「料理上手」 「服のセンスがいい」 「いつも朝起こしてくれる」  これは嘘。でも、見てる人のイメージは多分そうだと思うから、あえて言ってみた。 「なにげに車道側歩いてくれる」 (……そうだっけ?)  俺に合わせて、まおさんもエピソードを作ってくれたのかと一瞬考えたけれど──やってるわ。まおさんは、しっかりしているように見えて案外ドジっ子で、歩道を踏み外したりするから、なんとなく俺が車道側を歩くようになっていた。  俺でも意識してないことを、気にしててくれたんだ。  じわっと嬉しくなるけれど、どうにか顔に出さないようにして耐え切る。まだ全然、撮れ高が足りてない。 (次は俺の番っ) 「いつもめっちゃ真剣に動画作ってて、超がんばり屋なとこ」 「……っ。そんな風に思っててくれたんだ」  ちゃんと伝えた本心は、少しだけまおさんの心を動かすのに成功したみたいで、その頬がちょっぴり赤くなる。 「まおの一番近くにいるのは、俺だから。まおのことは一番よくわかってるよ」  笑うと負けってルールだから、表情は自然と真剣になった。  見つめたまおさんの顔は、耳まで赤くなっている。 (……あれ? これってもしかして……反応あり?)  勝てそうな手応え。それ以上に……初めて引き出せたまおさんの動揺に、俺の方が少し戸惑う。けれど── 「……じゃ、私からいくね」  女は生まれながらにして女優である。  アベル・エルマンの格言を今更思い出しても遅かった。まおさんは小さな深呼吸ひとつで、平静な表情を取り戻していたのだ。 「いつも、美味しいとか嬉しいとか、ごめんねもありがとうも、いっぱい素直に伝えてくれる。ゆうまのそういうところ、大好きだよ」 「え……」  一体、このシーンにはどんなBGMが付くんだろう。  頭の中は、貰った言葉を正面から受け止めることから逃げて、そんなことを考えていた。 (ヤバい。──嬉しい) 「はい、ゆうまの負けー!」  明るい笑い声で我に返ると、俺の頬は緩みまくっていた。 「まお、今のはズリぃよ〜!」  一緒になって大笑いしながらも、胸はずっとドキドキしっぱなし。  大好きな人からの『大好き』は、たとえフィクションでも破壊力がありすぎる。 「というわけで、マリカラさんの牛乳瓶プリンは、まおのものでーす」 「くそー……召し上がれ……」 「んー、でもさっきゆうまが言ってくれてことが嬉しかったから、一口だけあげる」  プリンをすくったスプーンが、口元に差し出された。 「ほら、ニヤニヤしてないで食べて」 「ニヤニヤしないとか無理!」  まおさんからの『あーん』なんて、負けたのにご褒美が過ぎる! 「弱っ」  スプーンを持ったまま、まおさんが笑う。 (あーもう!)  俺は、この日一番の本音を叫んだ。 「そんだけ好きってことで!」 「というわけで、カップルのみなさんもこのゲーム、ぜひ試してみてくださいね〜」  ビジネスとして始まってしまった俺とまおさんの関係は、こんないくつものスルーを乗り越えて、ちょっとずつ、本当にちょっとずつだけど、進展していく。  俺がこの日、まおさんの気持ちをほんの少し傾けさせるのに成功していたことを知るのは……まだずいぶん先のことだ。 つづく。
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