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【7話】20歳になった相方にお酒飲ませてみた!
<side Mao>
Rec.定点カメラのランプが赤く光る。
「『恋人とイチャイチャするだけの簡単なお仕事中! ども! カップルユーチューバーの、ゆうまお……のまおです!』」
いつもは2人でやっている挨拶とハート作りを、今日は1人でこなす。
「えー、私が1人でオープニングを撮ってるってことは……みなさん、お気づきですね? そう、ドッキリ企画ー!」
私しかいないから、なるべく大きく拍手したり、るんるん身体を動かしてみたり。
創意工夫しつつ、テンポよく話を進めていく。
「ドッキリっていうか、今日のはサプライズかな? なんとなんと! 今日は私の愛しい彼氏くん、ゆうまの誕生日なんです!」
ゆうまは今、大学で講義を受けている真っ最中。たまたま私の大学は休講だったから、急いで準備揃えてカメラ回してるってわけ。
「誕生日をちゃんと祝うのもね、彼女の務めですよ。え、これイイ女感出てんじゃない?」
さっそくいってみよう!
と、前振りを終えて、私はせっせと部屋にバルーンを浮かべ、壁にきらきらな装飾を飾り、一生懸命部屋をバースデーサプライズ仕様にした。
この辺は編集で早回しになっていることでしょう。
「で、ただ誕生日を祝うだけ……なんて、ゆうまおチャンネルらしくないですよね? ということで」
私は一旦画面からフレームアウト。トレーナーから、背中をリボンできゅっと結ぶワンピースに早着替え。
「はい。『プレゼントはわ・た・し♪』ってリアルに言われたら、彼氏はどんな反応をするのか! 検証しちゃおうと思います!」
最後にドンキで買った大きなリボンのカチューシャを頭に乗せる。
「こういう感じでゆうまを待ちます。……ちょっと可愛すぎたか?」
画面に映った自分の姿に思わず苦笑する。普段あんまり、こういう可愛い全フリな事やらないから。少し恥ずかしい。
ガチャリ。
鍵の開く音がする。ゆうまが帰ってきた。
私は慌ててドアの前にスタンバイ。
「ただいまー」
ゆうまがリビングに入って来た瞬間、クラッカーを鳴らす。
「ゆうま、誕生日おめでとう!」
「え!? あ、ありがとう!」
ゆうまは本気でびっくりしたようで、目をまんまるにしている。今回は何の打ち合わせもしてないもんね。ナイスリアクション!
「プレゼント用意したんだけど……受け取ってくれる?」
「うん、もちろん」
「あのね、ゆうま。プレゼントは、わ・た・し♪」
精一杯、私なりの可愛いを詰め込んで言ってみた。
その瞬間、ゆうまの表情から笑みが消える。
「……マジで?」
ゆうまは考えこむように口元に手を当て、ゆっくりとその場に荷物を置いた。
「ごめん。引いた……?」
「嬉しい……って言ったら、引く?」
「え……」
ゆうまは私の手を取り、優しく引き寄せながらカチューシャを外した。カチューシャは床に落ちて、カシャンと跳ねる。
(え? え?)
戸惑っているうちに抱きしめられて、ゆうまの胸に埋もれる。
腰に回された手がそっと背中を撫でて、しゅるり、リボンが解かれた。
(ま、待って待って待って!!)
「ストーーップ! ここまで! ゆうまおは健全なチャンネルです!!」
腕を交差して×を作り、思いっきりゆうまを押しのける。
そして急いで隠しカメラに駆け寄り、カモフラージュにしていたバルーンを避けた。
「まさか……」
「ドッキリでした〜!」
テレビ横に置いたカメラを見つけ、ゆうまはあんぐりと口を開けた。
「ちょっと期待したのにー!」
「はいはい、拗ねない拗ねない」
こっちもドッキリだったよ。いまだに少しばくばく言っている胸元を押さえると、ゆうまは隠しカメラを切り、私の背中のリボンを結び直してくれた。
「本気で引っかかったと思った?」
「……違うの?」
「まおさんの様子が違うことくらい、わかるよ」
柔らかく微笑むゆうまは、いつものゆうまで。
(安心しちゃうな、なんかしゃくだけど)
カチューシャも拾ってくれたゆうまに「ありがとう」と告げて、私たちは『ゆうまがドッキリに引っかかって拗ねている』という体で再びカメラを回した。
「こんな時は飲まなきゃやってらんないよねー? というわけで、次のコーナーいってみよう!」
「次のコーナー?」
「『ゆうまくん、ハタチの誕生日おめでとう! はじめてのお酒飲んでみた!』」
「おお! 俺、はじめて飲むならまおとって決めてた」
「可愛いこと言うなぁ、もう」
テーブルの上に、これでもかとお酒を並べる。全部は飲まないよ、サムネ用ね。
「じゃあ、改めて。誕生日おめでとう、ゆうま」
「ありがと」
「乾杯!」
こつんと缶を合わせて、ゆうまはビールを煽る。
「どう?」
「……苦い」
「はは、わかるわかる。じゃ、こっち飲んでみたら?」
私が飲んでいた甘めのチューハイの缶を渡すと、少しためらった後、ゆうまは一口飲んで目を輝かせた。
「あ、これおいしい」
「よかった。じゃ、どうぞどうぞ」
時折、手作りしたおつまみを紹介しながら、私たちはどんどん飲んでいく。
ゆうまは多少画面映えも気にしてるんだろう、色んな種類の缶を開けては飲み、潰しては開け、ハイペースで飲んでいく。
でも、忘れてた。完全に私のペースで進めちゃったけど……私、お酒強いんでした。
「まお。まおー……へへへ」
気づけば目の前には、すっかり酔っぱらったゆうまがいた。
(健全チャンネルとして、ここは酔った彼氏を正しく介抱するところを見せねば!)
「ゆうま、飲み過ぎちゃったね。お水飲める?」
「ん……」
赤くなってる頬を軽く撫で、私は水を取りに行こうとするけれど……
「やだ。行かないで」
「こらこら」
立ち上がろうとした私の腕を、ゆうまは甘えるように抱き込んだ。
「俺、まおと一緒がいい」
「一緒がいいの?」
聞き返すと、こくりとゆうまは頷いた。可愛い奴!
可愛いしすごくいい画なんだけど、完全に酔ってる。
(どういう方向にオチ持ってったら収まりいいかな)
考えながら、私はゆうまの手をゆっくり解き、ソファの上で向かい合う。
ゆうまの目はとろんと潤み、繋いだままの手には力がない。
(やっぱり、まずは水飲ませなきゃ)
再び立ち上がろうとした瞬間、ぐっとゆうまの手に力がこもった。
「……っ?」
すがるように引き寄せられ、抱きすくめられる。一瞬の出来事に理解が追いつかず、身体から力が抜けた。さっきとは、全然、力強さが違う。
熱のこもった吐息が、首筋をくすぐった。
「ずっと一緒がいい…──好き」
つづく。
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