【7話】20歳になった相方にお酒飲ませてみた!

1/1
前へ
/13ページ
次へ

【7話】20歳になった相方にお酒飲ませてみた!

<side Mao>  Rec.定点カメラのランプが赤く光る。 「『恋人とイチャイチャするだけの簡単なお仕事中! ども! カップルユーチューバーの、ゆうまお……のまおです!』」  いつもは2人でやっている挨拶とハート作りを、今日は1人でこなす。 「えー、私が1人でオープニングを撮ってるってことは……みなさん、お気づきですね? そう、ドッキリ企画ー!」  私しかいないから、なるべく大きく拍手したり、るんるん身体を動かしてみたり。  創意工夫しつつ、テンポよく話を進めていく。 「ドッキリっていうか、今日のはサプライズかな? なんとなんと! 今日は私の愛しい彼氏くん、ゆうまの誕生日なんです!」  ゆうまは今、大学で講義を受けている真っ最中。たまたま私の大学は休講だったから、急いで準備揃えてカメラ回してるってわけ。 「誕生日をちゃんと祝うのもね、彼女の務めですよ。え、これイイ女感出てんじゃない?」  さっそくいってみよう!  と、前振りを終えて、私はせっせと部屋にバルーンを浮かべ、壁にきらきらな装飾を飾り、一生懸命部屋をバースデーサプライズ仕様にした。  この辺は編集で早回しになっていることでしょう。 「で、ただ誕生日を祝うだけ……なんて、ゆうまおチャンネルらしくないですよね? ということで」  私は一旦画面からフレームアウト。トレーナーから、背中をリボンできゅっと結ぶワンピースに早着替え。 「はい。『プレゼントはわ・た・し♪』ってリアルに言われたら、彼氏はどんな反応をするのか! 検証しちゃおうと思います!」  最後にドンキで買った大きなリボンのカチューシャを頭に乗せる。 「こういう感じでゆうまを待ちます。……ちょっと可愛すぎたか?」  画面に映った自分の姿に思わず苦笑する。普段あんまり、こういう可愛い全フリな事やらないから。少し恥ずかしい。  ガチャリ。  鍵の開く音がする。ゆうまが帰ってきた。  私は慌ててドアの前にスタンバイ。 「ただいまー」  ゆうまがリビングに入って来た瞬間、クラッカーを鳴らす。 「ゆうま、誕生日おめでとう!」 「え!? あ、ありがとう!」  ゆうまは本気でびっくりしたようで、目をまんまるにしている。今回は何の打ち合わせもしてないもんね。ナイスリアクション! 「プレゼント用意したんだけど……受け取ってくれる?」 「うん、もちろん」 「あのね、ゆうま。プレゼントは、わ・た・し♪」  精一杯、私なりの可愛いを詰め込んで言ってみた。  その瞬間、ゆうまの表情から笑みが消える。 「……マジで?」  ゆうまは考えこむように口元に手を当て、ゆっくりとその場に荷物を置いた。 「ごめん。引いた……?」 「嬉しい……って言ったら、引く?」 「え……」  ゆうまは私の手を取り、優しく引き寄せながらカチューシャを外した。カチューシャは床に落ちて、カシャンと跳ねる。 (え? え?)  戸惑っているうちに抱きしめられて、ゆうまの胸に埋もれる。  腰に回された手がそっと背中を撫でて、しゅるり、リボンが解かれた。 (ま、待って待って待って!!) 「ストーーップ! ここまで! ゆうまおは健全なチャンネルです!!」  腕を交差して×を作り、思いっきりゆうまを押しのける。  そして急いで隠しカメラに駆け寄り、カモフラージュにしていたバルーンを避けた。 「まさか……」 「ドッキリでした〜!」  テレビ横に置いたカメラを見つけ、ゆうまはあんぐりと口を開けた。 「ちょっと期待したのにー!」 「はいはい、拗ねない拗ねない」  こっちもドッキリだったよ。いまだに少しばくばく言っている胸元を押さえると、ゆうまは隠しカメラを切り、私の背中のリボンを結び直してくれた。 「本気で引っかかったと思った?」 「……違うの?」 「まおさんの様子が違うことくらい、わかるよ」  柔らかく微笑むゆうまは、いつものゆうまで。 (安心しちゃうな、なんかしゃくだけど)  カチューシャも拾ってくれたゆうまに「ありがとう」と告げて、私たちは『ゆうまがドッキリに引っかかって拗ねている』という体で再びカメラを回した。 「こんな時は飲まなきゃやってらんないよねー? というわけで、次のコーナーいってみよう!」 「次のコーナー?」 「『ゆうまくん、ハタチの誕生日おめでとう! はじめてのお酒飲んでみた!』」 「おお! 俺、はじめて飲むならまおとって決めてた」 「可愛いこと言うなぁ、もう」  テーブルの上に、これでもかとお酒を並べる。全部は飲まないよ、サムネ用ね。 「じゃあ、改めて。誕生日おめでとう、ゆうま」 「ありがと」 「乾杯!」  こつんと缶を合わせて、ゆうまはビールを煽る。 「どう?」 「……苦い」 「はは、わかるわかる。じゃ、こっち飲んでみたら?」  私が飲んでいた甘めのチューハイの缶を渡すと、少しためらった後、ゆうまは一口飲んで目を輝かせた。 「あ、これおいしい」 「よかった。じゃ、どうぞどうぞ」  時折、手作りしたおつまみを紹介しながら、私たちはどんどん飲んでいく。  ゆうまは多少画面映えも気にしてるんだろう、色んな種類の缶を開けては飲み、潰しては開け、ハイペースで飲んでいく。  でも、忘れてた。完全に私のペースで進めちゃったけど……私、お酒強いんでした。 「まお。まおー……へへへ」  気づけば目の前には、すっかり酔っぱらったゆうまがいた。 (健全チャンネルとして、ここは酔った彼氏を正しく介抱するところを見せねば!) 「ゆうま、飲み過ぎちゃったね。お水飲める?」 「ん……」  赤くなってる頬を軽く撫で、私は水を取りに行こうとするけれど…… 「やだ。行かないで」 「こらこら」  立ち上がろうとした私の腕を、ゆうまは甘えるように抱き込んだ。 「俺、まおと一緒がいい」 「一緒がいいの?」  聞き返すと、こくりとゆうまは頷いた。可愛い奴!  可愛いしすごくいい画なんだけど、完全に酔ってる。 (どういう方向にオチ持ってったら収まりいいかな)  考えながら、私はゆうまの手をゆっくり解き、ソファの上で向かい合う。  ゆうまの目はとろんと潤み、繋いだままの手には力がない。 (やっぱり、まずは水飲ませなきゃ)  再び立ち上がろうとした瞬間、ぐっとゆうまの手に力がこもった。 「……っ?」  すがるように引き寄せられ、抱きすくめられる。一瞬の出来事に理解が追いつかず、身体から力が抜けた。さっきとは、全然、力強さが違う。  熱のこもった吐息が、首筋をくすぐった。 「ずっと一緒がいい…──好き」 つづく。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加