排水口

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 先ほど尊の話を聞いたせいで部屋の中の空気が何となく重たい。 「開けるぞ──」  尊が排水口の上に被せられた蓋を外した。 「うわ、マジかぁ……」  排水口のごみ受けには濡れた黒髪が丸まった蛇のように固まっていた。誰がどう見ても俺の髪の毛ではない。 「と、取るぞ」  ゴム手袋を嵌めその黒髪を掴む。 “ズルッ” “ニチャ” 「おえっ! き、気持ち悪ぃ」 「普段から掃除をしていれば……そういう問題じゃないか」 “ガコッ” 「うげっ、排水パイプの中まで続いてるっぽい」 「ごみ受けを外して引っ張り出すしかないな。やれるか、聡司? 無理なら代わ──」 「大丈夫だ、とっとと終わらせよう」  気乗りはしないし大丈夫ではないが放置するのは気持ちが悪い。俺は意を決して常世の闇のような先の見えない排水パイプの中に手を突っ込んだ。  すると── “グイッ” 「ひぃっ!」 「大丈夫か!?」 「なんか引っ張られたかも……」 「うわっ、さ、聡司……手、手っ!」  恐る恐る自身の手を見てみる。  俺の手に張り付いていたのは黒髪とその黒髪に絡み付いた大量の歯だった。 「うわぁぁ!」 「落ち着け聡司! 人の歯が排水口に入ってたとなれば事件だ。警察に電話しよう」  その後、尊が警察に電話をし事情を説明した。  警察が到着すると近所の野次馬も集まり俺たちも外へと追いやられた──  後日、警察署に呼び出され事件の詳細を聞かされた。30年前──あの部屋に住んでいた女性が恋人に殺されたそうだ。男女間のもつれで済むような殺され方ではなく生きた状態で歯を抜くという残忍な方法で女性は殺されたという。そしてその歯は見つかっていなかったそうだ。  大家さんは昔の事件だから告知義務は無効だと言い張っているうえ引き渡しの際はきちんとクリーニングをしたと言い張っている。 「でも何で今さら出てきたんだろうな?」 「不浄な場所には集まりやすいんだって──聡司の部屋が汚かったから出ちゃったんじゃない?」 了
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