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チンチン電車・TinTin Tram
母親に手を引かれて家路についた時には、日がとっぷりと暮れていた。
「毎週金曜日にやるんだって!」
私は興奮していた。
人生初めての、ヒーローとの出会いだったからだ。
「遠い星の宇宙人でね、ふだんは人間だけど、ピンチの時に変身するんだって」
暗い路面をいく、都電荒川線のチンチン電車は小刻みに揺れている。
私は夜空に、彼の故郷の星が見えないだろうかと、靴を脱いで窓の外を眺めた。
「あーあ。やっぱりこうなったか」
母はテレビを見ることに否定的だった。
子どもの教育上よろしくない、と決めつけていたからだ。
「こうなると知っていたからね。見せたくなかったんだ、お母さんは」
「戦闘機も、かっこいいんだよ」
私は話しをやめなかった。
彼女が何を言おうとしているのか、子どもながらに理解していたのだ。
彼との出会いが、私に勇気を与えていたのかもしれない。
母は息子のささやかな反抗に衝撃を受けたようだった。
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