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彼の名は。
『中華そば はじめました』
変わった名のその店は、リニューアルオープンした中華そば屋だ。店の前は、お祝いの花で埋め尽くされている。
昔ながらの商店街。シャッターが降りる店舗も少なくない中で、その店は目立っていた。
「はっちゃん、おめでとう」
30年来の幼馴染みから更に花束を手渡され、店長の男性は深々と頭を下げて受け取った。
「ありがとう。色々あったけど、何とかやってこられたよ。でも、ここからがスタートなんだろうな」
この店はもともと、店長の父親が切り盛りしていた。しかし、持病が悪化して他界。母親も体を壊し、後を追うように息を引き取った。
父親の背中を追って料理人として修行をしていた息子は、父親の店を再開した。ただし、店名は変えて。
「はっちゃん、本当にいいのか? 昔から、散々からかわれたのに」
「いいんだ。もう慣れた。むしろ逆手に取ってやると決めたんだ」
店長は、晴れ晴れとした表情を浮かべる。
「俺の名は、真下肇だからな」
【『彼の名は。』完】
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