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ところがその時は一人だけ、洞口のその盛る癖をどうしても許せなかった奴がいた。同室になったメンバーの中で一番不良っぽくて意気がってる古川だ。
古川は洞口とは違って、正真正銘、この夏に彼女ができていた。同じクラスの不良仲間の佐々木さんと付き合い始めたのだ。
夏休みの夜、俺は初めてアイコと二人だけで花火大会に行ったんだぜ、それでその帰り、暗い土手沿いを歩いている途中、周りに誰も居なくなった一瞬のチャンスを狙って、俺はアイコをギュッと抱きしめてキスしてやった――なんて話を古川が得意げに話すものだから、古川のことがちょっと怖い同室の奴らはみんな「すっげー!」「ホントかよ!」「やるなぁ!」と驚きの声を上げながら一斉にヨイショしたんだ。
でも、不良の古川への多少のおべっかという面は確かにあったけど、自分と同じ年齢の奴にもう彼女ができてキスまで済ませたなんて、その話は普通に驚きだった。古川が語る体験談はとても生々しく刺激的で、聞いてる俺までドキドキしてしまう。普段はいつも教室でだるそうにしている古川が、雲の上の別世界に住む人のように見えたもんだった。
そんな風に古川の彼女の話で一同がドッカンドッカン大盛り上がりしている時に、空気を読まない洞口がいきなり「俺も、この夏休みに彼女できたぜ」なんてしょうもない嘘を言うものだから、みんなガックリきてしまった。
「また洞口が盛り始めたよ」と誰もがウンザリした顔をしたし、他の奴らよりも一歩先に大人の階段を登ってやったという優越感に浸ってた古川も、思わずカチンときて洞口に食ってかかったんだ。
「彼女って、どこで知り合ったんだよ洞口!」
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