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俺は今まで女の子と付き合ったことがない。告白したことも告白されたこともないが、もし仮に俺が誰か女の子に告白して成功したとしても、じゃあその後、女の子と何をしたらいいのか、さっぱりイメージが湧かないのが正直なところだ。
たぶんそれは、古川以外のここにいる全員が似たような状況だろう。マンガなどで見る限り、付き合っている男女はきっと二人でどこかに遊びに行ったり、それで誰もいない所でキスしたりするものなのだろう。それでいずれ、その先のよく分からない世界まで行くのだ。
そういう手順は知識として何となく知ってはいるものの、マンガは決してその辺りを親切に詳しくは描いてくれない。だから俺が描くイメージはいつもフワフワと漠然としていて、空想というか妄想の域を出ない。
洞口のような奴に本当に彼女がいるはずなどないから、洞口の知識もきっと空想に毛が生えたレベルのはずだ。だから、付き合っているというそのカナダ人の彼女と普段どんなことをしているのかを根掘り葉掘り聞き続ければ、きっとすぐにボロが出るに違いないのだ。
「何してるって、二人で一緒に出かけたり、手をつないだり……」
「……それで?」
「別にそんな、遊園地とか行ったりとか、特別なことをしたことはないよ。だって普通に親戚の家に行けば会えるんだし」
「……それで?」
「何だよもう。その程度だよ」
しつこく俺が食い下がるのを、洞口は面倒くさそうにあしらった。洞口のくせにあまり盛ってこない、何だか妙にリアリティのある話だ。
普段のコイツだったら、すぐに話をてんこ盛りにして「こないだホテル行ったぜ」みたいな見え透いた嘘を言ってすぐに馬脚を現すのだが、今日のカナダ人彼女の話は、まるで本当に実体験を元にしているかのような現実感がある。
すると古川が、少しだけ焦ったような口調で洞口に尋ねた。
「……キスとか、もうしたのか?」
洞口が、腹が立つほどのドヤ顔を浮かべながら答えた。
「したよ。舌もちょっとだけ入れた」
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