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「お嬢さんもそう思うかね。俺たちゃ此処を
『翡翠雀の湖』って呼んでんだ。
この古民家に住んでた智恵って婆さんが
付けた名前さ。
戦後間もない東京で働いていた人でな
暫くして帯織島に帰ってきたんだ
若い時ゃそれは綺麗だったな。
そういやお嬢さん何処となく若い時の
智恵さんに似てる気がするな…」
よくあるオジサンの妄言である
源造のそんなちょっかいにも
優里は扱い慣れた様子で口角を上げ
表情だけで上手に答える。
「古民家の奥に智恵さんが使ってた
生活スペースがあるので
そこで寝泊まり出来る様になっています。
源造さんが掃除してくれたと思うので
良かったら御覧になって下さい」
気を悪くしたかな?と少し心配した慎太郎が
慌てて気を反らすと優里は会釈だけして
奥の部屋へ入って行った。
「まぁ…良かったじゃねぇか。
住み手が居なきゃ市役所が取り壊す
予定だったんだろ?万々歳だな」
慎太郎は横目で源造を見ながら少しムスッと
した表情をしている。
「まぁ…それはそうと今の時期だ…
快く思わねぇ連中もいるわな」
慎太郎を宥めながら源造が
古民家の暖簾を越しに外を眺める視線の先には手拭いで口元を覆い隠しながら此方を見て噂話をする島民が幾人か浜辺に居るのが伺えた…
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