第1章:慎太郎と優里

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第1章:慎太郎と優里

『中国上海の海鮮市場から広まった 喘息(ぜんそく)ウイルス感染者…本日東京では新たに150人 大阪や名古屋等の地方大都市にも 感染が拡大しており…』 ラジオ放送を聴きながら慎太郎(しんたろう)が潮風で錆びた 軽トラックの窓を半分開けると 波の音と晩夏の心地好い陽光が車内を満たす。 青く煌めく海の色を眺めながら沿岸を辿(たど)帯織港(おびおりこう)へと向かう。 昨夜の霧は綺麗に消え去り 水平線の彼方(かなた)まで鮮明に見渡せた。 浜辺では釣りをしたりサーフィンを楽しむ 島民が彼方此方(あちらこちら)に見える。 着物の(おび)を蝶結びした様な形のこの離島の海が 最も賑わう季節だ。 カーフェリーやジェットホイルが行き交う 帯織港を横切り海辺のビジネスホテルの 駐車場に軽トラックを停めると 晴天の青空を優雅に飛び回る 海鳥の鳴き声が慎太郎を出迎えてくれた。 「御客様のお出迎えですね? そろそろチェックアウトの時間ですので 間もなく御出(おいで)になると思いますよ」 ホテルロビーの若い男性スタッフは 爽やかな笑顔で慎太郎にそう言った。 平日の昼下り観光客は(まば)らだが 適度に宿泊客も居る。 働く従業員達にとっては丁度良い 仕事バランスで彼らは快適そうに 動き回っていた。 「ポン」 電子音が響き渡り ロビー脇のエレベータのランプが点滅すると ドアが開き宿泊客が一人降りてきた。
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