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「プッ…ハハハハ。楽しそうですね。
私も荷台に乗ってみたいです」
慎太郎が知らない島の外から訪れた
ミステリアスな女性が魅せる表裏のない
柔らかな笑い声。その声を聞いた途端
バンドルを握る手の肩の力がスッと抜けて
身体が軽くなった。
「いや~それはちょっと危ないですよ(笑)」
慎太郎はそう言って下り坂の急勾配に
アクセルを緩めながら団子っ鼻の丸い顔を
クシャッとさせて人懐っこい笑顔を覗かせる。
浅黒く日焼けした肌から感じられる
太陽と土の匂いは優里に安らぎを与えた。
煙草とアルコールそして時には狡猾な
駆け引きの匂いがする…
それが優里の知り得る男性という存在であり
心を許す事など出来なった彼女にとって
慎太郎は木洩れ日の様な癒しを与えてくれる
初めての男性の様に思えた。
二人の他愛もない会話が続き
軽トラックは花群生地から
淡緑色に染まるブナの原生林を抜け
山頂から流れ落ちる姫黒滝の涼やかな音色を
頼りに海辺へ向けて下山する。
一面緑だった視界が突然開けて
目映い光が眼に飛び込んで来る。
坂の上から眺める海面は陽光を浴びて
黄金色に光輝き幻想的な空間が水平線まで
広がっている。
急勾配を颯爽と下る軽トラック。
爽やかな潮風を肌に感じながら優里は
真珠の様に光輝くまだ見ぬ遠い祖国の海を
想像していた。
まるで宝島でも発見した少年の様に
慎太郎が嬉しそうな声を上げる。
「彼処。あれが『舎根木』です」
慎太郎が指を指す方角には狭い谷合にある
海に向かって開かれた小さな集落が見えた。
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