第1章:慎太郎と優里

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「プッ…ハハハハ。楽しそうですね。 私も荷台に乗ってみたいです」 慎太郎が知らない島の外から訪れた ミステリアスな女性が魅せる表裏(ひょうり)のない 柔らかな笑い声。その声を聞いた途端 バンドルを握る手の肩の力がスッと抜けて 身体が軽くなった。 「いや~それはちょっと危ないですよ(笑)」 慎太郎はそう言って下り坂の急勾配に アクセルを緩めながら団子っ鼻の丸い顔を クシャッとさせて人懐っこい笑顔を覗かせる。 浅黒く日焼けした肌から感じられる 太陽と土の(にお)いは優里に安らぎを与えた。 煙草とアルコールそして時には狡猾(こうかつ)な 駆け引きの匂いがする… それが優里の知り得る男性という存在であり 心を許す事など出来なった彼女にとって 慎太郎は木洩れ日の様な癒しを与えてくれる 初めての男性の様に思えた。 二人の他愛もない会話が続き 軽トラックは花群生地から 淡緑色に染まるブナの原生林を抜け 山頂から流れ落ちる姫黒滝(ひめぐろたき)の涼やかな音色を 頼りに海辺へ向けて下山する。 一面緑だった視界が突然開けて 目映い光が眼に飛び込んで来る。 坂の上から眺める海面は陽光を浴びて 黄金色に光輝き幻想的な空間が水平線まで 広がっている。 急勾配を颯爽と下る軽トラック。 爽やかな潮風を肌に感じながら優里は 真珠の様に光輝くまだ見ぬ遠い祖国の海を 想像していた。 まるで宝島でも発見した少年の様に 慎太郎が嬉しそうな声を上げる。 「彼処(あそこ)。あれが『舎根木(やどねぎ)』です」 慎太郎が指を指す方角には狭い谷合(たにあい)にある 海に向かって開かれた小さな集落が見えた。
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